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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

商店街で買い物を済ませて帰ろうとしたら、後ろから声をかけられた。その声に一瞬ドキッとしたが、平然を装って私は振り返った。



「銀さん、こんにちは!」

「帰りか?」

「はい!あ、定春のお散歩ですねっ!こんにちは定春!」

「わんっ!!」



今日ももふもふだねーなんて言いながら定春を撫でると嬉しそうに擦り寄ってきた。本当に可愛い。癒される。



「散歩ついでに送ってくわ。」

「え、でも反対方向ですよ?」

「たまには長い散歩もいいだろ、な?」

「わんっ!!」



定春の同意を得れたし行くぞといって銀さんが歩き出したので、私も慌てて隣に並ぶと、銀さんは自然と荷物を1つ持ってくれた。



「なんで今日は自転車じゃねーの?」

「荷物少ないこと分かってましたし、たまにはゆっくり歩いて行こうかなって。」

「太ったの?」

「は?!全然?!キープですけどぉ?!」

「いや、歩きてぇとか運動したいってことかと。それってつまり女が好きなダイエッ」

「違いますよ!!てか好きでダイエットする女性いませんからね!!世の女性に謝れ!!」

「ま、お前はその必要ねぇもんな。」



むしろちゃんと食ってんの?と銀さんはからかいながら、私の腕を掴んだ。細せぇなんていいながら触られたところが、熱い。



「た、食べてます!!銀さんこそ!最近どうなんですか?神楽ちゃんたちに食べさせてあげれてるんですか?」

「卵かけご飯が坂田家のご馳走だバカヤロー。」



あ、またそんな生活しているんだと知ったら心配せずにはいられない。銀さんのことだから、滅多なことじゃなきゃ倒れないだろうけど、それでもいつか倒れたら…?ちゃんとしたもの食べて栄養つけてもらいたいと思った私は、買い物袋から何か万事屋のみんなに差し入れになる物はないかを探った。



「…魚肉ソーセージいります?」

「…いる。」



本当はちゃんとしたお肉とかあげたいが、今日はあいにく肉類を買っていない。また今度、夕飯食べに来てもらおうなんて考えていると、隣から笑い声が聞こえた。



「なに、なんで笑ってるんですか?」

「いや必死な顔で探してるからよぉ。」

「ぎ、銀さんたちのために!」

「わーってるよ。ありがとうな、名前。」



年下の女の子に心配されるなんて銀さん嬉しいなんて言いながら、銀さんは私の頭を撫でた。年下の女の子に心配されることを悲しんで欲しいのに、この人は本当にダメな人だな。



「(ダメな、人なんだけどなぁ。)」



それなのにどうしてだろう。どうして時々この人に甘えたくなるんだろう。どうしてこの人の一言や言動で、私は一喜一憂するんだろう。最近、私はとてもおかしい。



「あ、」



川の土手沿いにきた途端、ちょうど夕日が銀さんの後ろに見えた。それはとてもよく、銀さんに似合っていて、私はつい足を止めて見入ってしまった。



「どうした?」

「あ、いえ。その、夕日…綺麗だなって。」

「おー、そうだなぁ。」



急に立ち止まってすいませんといって、私は再び歩き始めた。私に合わせて立ち止まっていた定春も動き出すと、銀さんはいいこと思いついたといって、急に距離を縮めてきた。



「な、なんですか?」

「こいつ、なかなか乗り心地いいからよっと!」



そういって銀さんは私の腰に手を回し、そのまま軽々と抱き上げて、そしてそっと、定春の上に乗せてくれた。



「へ?い、いんですか?!定春重たくない?!大丈夫?!」

「わんっ!!」

「大丈夫だってよ。」



いまさらだけど、人間が乗れるほど大きな犬ってすごいなぁと思う。それも確かに銀さんのいうとおり、乗り心地がいい。



「家に着くまで満喫しろよ。」

「なんていう贅沢!」



歩かなくていいし、車やバイクみたいに運転もいらない。定春のもふもふの身を任せておけばいいだなんて贅沢だ。私がそういって笑うと、銀さんが、何度も頷きながらやっぱりなと呟いた。



「よく似合うんじゃねーの。」

「似合う?」

「夕日と名前の笑顔。」

「っ!!」



ついでにでかい犬も似合うな、なんて普通に言うもんだから、私は照れてしまい、俯いて顔を隠した。この夕日だから、きっと顔が赤いことなんかバレないだろうけど。それでも、まともに銀さんの顔を見ることができなかった。



「ぎ、銀さんも…」

「ん?」

「その髪色と、夕日…すごく綺麗です。銀さんと夕日が似合う、っていうか…。」



さっきそれでつい魅入ってしまいましたなんてまで言ってしまった私は、さっきより頬の熱が上がるのを感じた。なに、口走ってるんだろう。



「あ、っそ…。ま、まぁ、…俺くらいの男なら?なんでも似合っちゃうんだよねー!」



あ、照れてる。その慌てっぷりが可笑しくて、私はお腹を抱えて笑った。そんな私に銀さんは、笑いすぎだろといってほっぺをつねってきた。痛い痛い!といえば、定春が銀さんに向かって威嚇をし出したので、さらに可笑しくなって私は笑いが止まらなくなった。





「新八、あいつら馬鹿アルか?」

「そうだね、なんであれで付き合ってないんだろうね。」

「あらやだ銀さんったら名前さんに触りすぎじゃない?名前さんが汚れちゃう。」

「いや、姉上、そんな銀さんを菌みたいに言わなくても…。」



そんな私たちの様子をまさか他の人に見られてるとは知らず、私たちは川沿いの土手をゆっくり、ゆっくり、歩いた。家に着くまであともう少し。



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