ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ! |
気になる。すごく、気になる。私は品出しをしながら、さっきから外でジャンプを立ち読みしているある男性を盗み見していた。それは別に万引きをしそうだからとか、不審者っぽいからとかではなく、その格好に興味があるからだ。 「…お嬢ちゃん。」 「は、はい!」 「これ、立ち読み禁止?」 そういって目の前に差し出されたジャンプ。盗み見していたはずが、どうやら本人にバレていたらしく、私は慌てて頭を下げて謝罪をした。 「す、すいません!!」 「いや、立ち読みがいけねぇなら、こっちこそすまなかった。」 「いえ!立ち読みはその!まぁ、ずっとは困りますけど、全然その程度なら大丈夫です!」 「なら、なんでさっきから俺のこと…いや、まさかな。そんな…、でも見ようによっては俺もそこそこ…」 ぶつぶつ何か言っているが小さすぎて聞き取れず、私があの、と声を掛けると、その人は頭を掻きながら、急に謝りだした。 「え?」 「俺は独り身だが、特定の女は作らねぇんだ。お嬢ちゃんの気持ちは嬉しいが、」 「は?いや、あの…なんでわたしやんわりと断られてるんですかね?」 「…お嬢ちゃん。確かにお嬢ちゃんは可愛いが、必ずしも男全員が受け入れてくれるなんて勘違いしちゃいけねぇ。ま、それほどの自信があるってことは、」 「あの、そうじゃなくて。わたし、告白なんかしてないのに、なんでフラれてるんですか?」 「え?違うの?」 「違いますよ。」 盗み見していた私も失礼だが、この人もたいがい失礼だな。私が明らかに怪訝な顔をしていると、その人はそれならなんでそんなに見ていたんだと、痛いところをついてきた。 「いえ、それは…その。」 「俺に勘違いをさせて恥をかかせたんだ、それくらい教えてくれてもいいだろ。」 「いやー…その、」 言えない…!格好が忍者っぽくて、もしかしてこの世界には、忍者がいるのか?!と、内心外国人並みにテンションあがっていたことなど、言えるはずがない! 「そ、その…目!」 「目?」 「髪が長いのでその、目が!み、見えてるのかなぁ〜って!不思議に思って!すいません!気を悪くされましたよね!」 「あ、いや、別にそれくらいなら。」 本当は聞きたい!忍者ですか?ジャパニーズ忍者ですか?忍法は使えるんですか?水の上は歩けるんですか?って、聞きたい! 「(けど聞けないっ…っ!!)」 「それじゃこれ買って帰るわ。」 「へ?あ、ありがとうございます!!」 そういってその人はジャンプを買って、帰っていってしまった。私はその人の後ろ姿を見送りながら、忍者…と名残惜しく一言つぶやいた。 その日の晩、万事屋の3人が突然遊びにやってきた。 「名前ご飯食べさせてヨ!」 「またちゃんとしたもの食べさせてもらってないんですか?」 「ここ数日まともな依頼がないんですよ…。」 「あるのは猫探しくれぇなもんだよ、ったく。」 だからってご飯目的で来られても、私だってギリギリでお店を切り盛りしてやっているというのに、と思いつつも、神楽ちゃんと新八くんには、いつも頑張ってるご褒美になにか美味しいものを食べさせてあげたいなぁと思い、冷蔵庫を覗いたが、あいにく四人分作れそうな食材は何もなかった。 「んー、なにか頼みますか。」 「デレバリー!」 「神楽ちゃん、それをいうならデリバリーね。」 「名前!私、ピザが食べたいネ!」 ピザ?そういえば私も久しくピザなんか食べてないなぁと思ったら、もうお口の中はピザになった。よし!ピザを頼みましょう!と言えば、銀さんも新八くんも同意をしてくれた。 「銀さんここらへんにあるピザ屋さんってどこですか?」 「あー、俺が注文してやるよ。」 「金額ちゃんと考えてくださいね。」 「言っとくが、神楽一人で一枚どころか二枚は食うぞ。」 「まじでか。」 え?それ全部私の奢りになるんですか?と聞けば、銀さんは完全スルーで電話注文をし始めた。くそ!領収書は万事屋坂田銀時にしてやる!と、私は心の中で叫んだ。 それから数分して玄関のインターホンがなった。私は財布を持って玄関に向かい、扉を開けると、そこには今日お店で話したあの人がいた。 「(に、忍者さん!!)す、すいません、ご苦労様です。」 「あんた、こんなに一人で食べるのか?」 「違いますよ!!友達が来てるんです!」 ああ、そうなの。それならよかったといって、その人はピザを渡してきた。前が見えなくなるほど積まれたピザを受け取った私は、一体いくらするんだろうと青ざめた。そして金額を提示され、そのまま卒倒するかと思った。 「(ゆ、許すまじ万事屋!!!!)」 「大丈夫か?」 「だ、大丈夫ですよ…。ちょっと待ってくださいね…。」 これが物ならキャンセルしたが、食べ物だとそうはいかない。仕方がなく支払おうと一旦受け取ったピザを床に置き、財布からお金を取り出した。それにしても、この人がピザを届けにくるってことは、つまり… 「毎度ありー。」 「あの、ピザ屋さん、だったんですね。」 「あぁ、まぁな。」 忍者の格好はもしかしてピザ屋の制服?なんだ、そういうことだったんだ。期待して損した、なんて勝手に落胆していると、その人は、 デリバリーの仕事が一番しっくりくるんだよといった。 「好きなんですか?バイク?」 デリバリーといえばバイクだ。バイクが好きだから、しっくりくるという意味かと思えば、どうやらそうじゃないらしい。 「バイクに乗ることもあるが、屋根伝いの方が早く届けられるからな。俺にはこれがあう。」 屋根伝い?何を言っているんだ?と思った時にはすでにその人は私の目の前におらず、どこにいったのかと探せば、その人は斜め向かいの家の屋根に乗っていた。 「え?!あ、危ないですよ!てかいつまにそんなこところに?!」 「じゃぁなお嬢ちゃん。またご贔屓に。」 そういってその人は本当に屋根伝いにピョンピョン飛んで行ってしまった。それはまさしく、 「忍者ああああ?!?!?」 「おいどうした名前ー、ピザまだかー?」 「名前ー、私もうお腹ペコペコヨ!早く持ってくるヨロシ!」 「名前さんどうかしましたか?」 いるんだ!やっぱりこの世界には忍者はいるんだ!と、その姿に完全にテンションが上がってしまった私は、つい床に置いたことを忘れていたピザを踏みつけてしまい、その後、万事屋3人の哀しい顔の前で平謝りをするはめになった。(大丈夫!食べれないことはない!) 「で、さっきなに叫んでたの名前ちゃん。」 「忍者はいたんだよ!ほんとうに!すごいよね!」 「どうした、急に。」 私は冷めやらぬ興奮のまま、今度どこかで会ったら是非、忍法を見してもらおうと決めた。 戻る |