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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!


すごい人だなぁ…と、バレない程度にある人を目で追う。そのある人とは、サングラスにヘッドフォン、背中にはギターじゃなくて三味線をもっている、一見、若者に見えてそうでもなさそうな人だ。やっぱりこういう人が本屋にきて探すのは楽譜だろうか?



「(楽譜…置いてないんですって言って、違うかったら失礼だしなぁ…。)」



三日月堂では楽譜は取り扱いがない。近くに楽器屋さんがあるため、わざわざ置かなくてもと思ったのだが、もしかしたら小説を買うついでに、ということもあるかもしれない。それなら一度、試しに置いてみてもいいかもしれないなぁと思い、私は手元の紙にメモを残した。



「そうなると、どのジャンルを置くかが難しいでござるな。」

「(ござるな?!)」



突然のござるに驚きて勢いよく顔を上げると、さっきまで目で追っていた当人が私のメモを覗きながら顎に手を当ててなにやら考え込んでいた。



「この近くにある楽器屋が確かに一番大きな老舗の店だが、あそこは芸子のために品揃えを中心としているでござる。若者たちはそこよりも少し離れた先の楽器屋を贔屓にしていると聞くでこざるよ。」

「そ、そうなんですか?」

「まぁ拙者としては、今のところどちらにも置いていない、お通ちゃんのようなアイドルジャンルを置いて欲しいところでござるがな。」

「お通ちゃん…。」



ああ、よくテレビで見るアイドルの子か。そういえばギター片手に弾き語りをするアイドルだっけ。



「…もしお探しであれば、お取り寄せいたしましょうか?」



扱いはなくても取り寄せはできることを申し出ると、その人は一瞬考えたのち、いや、いい。と断られてしまった。



「…噂に聞いていた通り、いい音色でござるな。」

「音色?」



そういって、突然その人は上を仰ぎながら目を閉じてなにやら口ずさみはじめた。え?!店内ではとくにBGM流してないんだけど…。あ!ヘッドフォンから流れる音楽のことか!なんだ、びっくりした。いや、それにしても、会話の中で急すぎる。人と会話しながら音楽聴いてるなんて器用だけど、少しだけ失礼な人だと思ってしまった。



「優しさと力強さが融合しているでござる。これは…晋助も気にいるのも無理ないでござるな。」

「…あ、」



晋助なんていう名前、たいして珍しくもないが、ここにきてその名を出し、気にいるだのなんだのいうのは、これまでの経験上、ひとりのことを指していた。つまりどうやらこの人も、



「晋助さんのお知り合いだったんですね。」

「申し遅れた、拙者、河上万斉と申す。」



そういって握手を求めてきた万斉さん。私は慌ててその手を取り、一応改めましてと名乗る。そしてふと気になったことを聞いて見た。



「あの、いい音色って、一体何を聞いているんですか?」

「名前殿の音を聞いていたでこざる。」

「……。」



…いや、ちょっとよくわからないですね。まさかの予想外すぎる答えに私が戸惑っていると、万斉さんは名前殿はセンスがいいということでござる。と、またわけのわからないことを言った。



「是非今度、セッションをお願いしたいでござる。」

「は、はい、えっと、是非?」



セッション?!セッションってなんだろ?!どうやって?!と、もう万斉さんの言葉を何1つ理解できないでいるが、晋助さんのお知り合いということもあり、彼もまた不思議な方なんだろうと自分を無理やり納得させた。



「では、また。」

「え?あ、はい!!」



そういって気が付けば、何やら満足気に店を出て行ってしまった万斉さん。どうやら何かを買いに来たというよりも、私を見にきたようだ。このパターン何度目?なんだか晋助さんの周りの人たちって、



「…過保護?」



そう口にしてから、思わず晋助さんに似合わない言葉に笑ってしまった。こんなこと本人に言ったら怒られるんだろうな。でも、ちょっと聞いて見たいかもしれない。晋助さんの周りには、他にどんな人たちがいるのか。



「…三味線の楽譜、置いてみようかな。」



今度は誰に会えるだろう。

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