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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!


「…誰。」

「わたしだよぉ〜!銀子じゃなぁ〜い!忘れたのぉ〜?」

「…誰。」

「私のことも忘れたというのか!」

「いや、誰。」



突如、三日月堂に現れた三人。ひとりは新八くんで、顔を引きつらせながら助けてくださいと懇願してきた。どうしたのかと、後ろにいるふたりを見やると、小柄な女性と図体のでかい男性が立っていた。その異様な、見覚えのあるふたりに、いま私は戸惑っている。



「えっと、名前さん、その…すいません…このふたり、銀さんと神楽ちゃんでして…」

「…はい?」

「銀さんと、…神楽ちゃんです。」

「し、し新八くんんんんん!?!?、わたし頭打ったのかな?!頭打って可笑しくなったのかなぁ?!?!」



新八くんの信じられない発言に何度も二人を見やる。そう言われれば、なんとなく見覚えがあるのも頷ける。が、そんなわけがない。どう考えてもおかしい。だってコスプレとかそんな次元じゃないもの。体型思いっきり変わってるもの。声だって違うもの!!

そんな私の頭が激しく混乱しているのにも関わらず、銀子という女の子は大丈夫ぅ?と甘い声を出しながら、私に体をすり寄せてきた。



「いやいや、新八くん。この人、めちゃくちゃ可愛いよ?小柄だし、目くりくりだし、なのに胸でかいし柔らかいし。すごい当ててくるんだけど、胸。」

「それでもそれは銀さんなんです!!ていうかあんたなにやってんですかァァァ!!ちゃんと名前さんに説明してくださいよ!!」



どうやら新八くんはずっとこんな感じで、ひとりでツッコミを捌いているらしく、そろそろ疲れたから私に信じて欲しいらしい。その心境は察するが、この異様な状況を、はいそうですかと早々に受け入れれるわけがない。



「あ、やっぱりここにいた。」

「あら、本当ね。ちょっと、万事屋、なにどさくさに紛れて名前ちゃんに抱きついてんのよ。」

「おい、てめぇセクハラでしょっぴくぞ、いますぐ離れろ。」



新八くんと一緒に頭を抱えていると、また誰かが三日月堂に入ってきた。その姿を目の当たりにした私は、一瞬の沈黙の後、またもや負のループにハマってしまった。



「…いや、誰。」

「名前はそのまんまですかィ。」

「誰。」

「よかった、名前ちゃんは無事で。心配してたのよ。」

「いや、誰。」

「名前不安だっただろ、もう安心しろ。」

「いや誰ですかっ!!!安心ってどこに?!どこに安心要素ある?!?!可愛い女の子と綺麗なお姉さんと、なんともいえないおさげな女の子なんて知らない!!」

「何言ってるの、私たちじゃない。」

「どの人たち?!?ちょ、新八くん!新八くんんんんんんん!?!?説明!説明プリーズゥゥ!!!」

「ハイィイ!!!えっと、この人が沖田さんでこっちが近藤さん!!それからこ、この人が土方さん、です。」



そういって少し気まずそうに紹介された一番最後の、おさげの女の子に息が止まる。…いやいや、本当にもう…



「土方さんんんんんんん!?!?!確かに声は土方さんだけど、土方さんじゃないいいいいい!!!!」

「落ち着けェェェ!!俺は俺だ!」

「どこがっ?!どこにその面影が?!?目つきか!目つきだけか!!どうした!なんでひとりだけそーなった!!」

「もう、そんな叫んじゃダメよ、名前ちゃん。落ち着きなさい?」

「これが近藤さんんんん?!?!胸でかすぎでしょ!!はっ?!てか総悟も胸でかい!銀さんも…ってなにそれェェェ!!!みんな胸でかすぎィィィ!!」

「そこかァァいィィィ!!!」



私の叫びに負けじと新八くんの鋭いツッコミが入る。だって、だってだって!可笑しくない?!可笑しいよね?!



「女体化になったら可愛くて胸でかくて人柄も変わって!?なんなのそれ!羨ましいわそれっ!!!」

「本音そこかいィィィ!!!」

「あ、でも土方さんは除く。」

「そこだけ冷静になってんじゃねぇよ!!!!」



そういって土方さんが私の頭をいつものように叩こうとするが、今は私より背の低い状態で届かない。伸ばされた行き場のない手を引っ込めることもできない土方さんは、なんとか届かそうとぴょこぴょこ跳ねるが、もちろん届かない。…その姿がなんというか、おさげが揺れる感じとか、ちょっと…可愛いい。…あ、抱きしめたいかも。



「土方さん、ちょっと抱きしめてもいい、」

「よくねェェェ!!!」

「…名前、俺は?」

「え、余裕で美少女すぎて犯罪レベル。総悟、あとで写真撮ろうね。」

「やったー。」

「てめぇはなに喜んでんだ!!!」



一通りはしゃいだ後、そろそろ叫びすぎて喉が渇いてきたので、私は一旦落ち着くことにした。それにしても女体化になってる本人らが落ち着いてるなんて、不思議だ。もし、自分が突然男の姿になってたら、今以上に慌てると思う。



「ところでみなさん、どうしてそんなことに?あ、あとちょっと銀さん近い。腕組まないで、胸当たってる。」

「当ててるんだもん!」

「もんじゃないよ可愛いな!!!」

「名前さん…思考ちょっと男寄りですよ…。」



新八くんもツッコミで疲れたのか、元気なく呆れたようにいうので、可愛い女の子は正義だからね!と、無駄に強く返しておいた。さらに可愛い女の子は、大好きなんです。といってなんとなく総悟を見やると、目が合った瞬間ウィンクをされた。いやー…あざとい。あざといわー…。可愛い。



「総悟が一番タイプかも。」

「やったー。」

「だからなんでてめぇは喜んでんだよ!!」



「それなら、わっちらはどうなるんじゃ?」



突然、耳元で囁く声に、え?と聞き返す間も無く、目の前に現れたのは、背の高い男性。煙管を吹かしていて、この人もどこか見覚えのある姿に思えた。



「え、つ、月詠、さん?」

「いかにも。どうじゃ、名前。」



どうって言われても…。突如現れた、男性になった月詠さんをまじまじと見つめる。もともと背が高くてモデル体型の月詠さんだ。性格も男っぽく、女も惚れる要素が多少あったが、これは…ダメだ。



「好きです。」

「オィィィ!!てめぇなに告ってんだァァァ!!!!!」



銀さんが盛大なツッコミをしながら、私の腕をぐいぐい引っ張って、月詠さんから離れさそうとしてくるが、女の子の力なので、さほど痛くもないし、叫び声も甲高いので正直うるさい。



「いやー…これはね、いける。いけるもん。」

「なにが?!なにがいけるの?!」

「抱いてもらえる気がする。」

「どんな発言してんだァァァ!!キャラ忘れてるよこの子!ついにキャラ放棄したよこの子!!!」



いやいや、それくらい月詠さんが男前すぎるって話です。と、フォローしつつも、結構本気だったりもする。だって、ねぇ。…格好良すぎるんですけど。タイプなんですけど。



「…ッチ、面白くねーでさァ。」

「同感だな。」

「名前ちゃ〜ん!よかったら私のこの美乳揉んでもいいわよ〜!」

「えっ゛?!いいんですか!!近藤さん!!」

「そこォォォ!!食いつくなァァァ!!!」

「名前、ツッキーがよくて、なんで私はだめアルか?」

「ダメじゃないよ!ダンディも好きだよ!そのガタイの良さならあれかな!お姫様抱っことかしてもらえるのかな?!」

「そんなのお安い御用アル。」

「ちょ、!!んなの俺がやってやるから!」

「今の銀さんじゃ無理だし、銀さんにしてもらってもときめかないからいいです。あ、でもその胸当ててくるわざとらしい仕草はグッジョブでした。」

「おっさんじゃねぇかァァ!!!つーか、なんで元の姿よりこっちの方が評価高ェんだよ!!!」


ああ、もう収集つかない。なんだこのドタバタは。と、ひとり新八くんだけが冷静でいたことなんて知らず、私はその後も神楽ちゃんと月詠さんに抱きしめてもらったり、近藤さんの胸を少しだけ触らせてもらったり、総悟と写真を撮ったり、嫌がる土方さんを抱きしめたり、キャラを忘れて楽しんだ。

そして最後の最後まで、新八くんのメガネがひっそりピンク色になっていたことは知らないままだった。

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