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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!


「…銀さん、私そこまでその…持ってきてないですよ。」

「ん?なにが?」

「…てっきりいつもの居酒屋かと思って…いつもの感じくらいしか…。」

「お洒落してこいっていったら、ちゃんと洒落てきたじゃねーか。別段、浮いてねーけど?」

「いえ、そうじゃなくて、」



失礼します、といってやってきたウェイトレスさんの手には丸い大きなお皿がふたつ。ふたりの前に静かにおいてから、何やら素材やソースなどの料理の説明を始めた。え、なに、ただのサーモンのマリネじゃないのこれ?



「では、ごゆっくりと。」



一通り説明し終わって去っていくウェイトレスさん。そう、店員さんではなくウェイトレス。注文じゃなくてオーダー。お箸じゃなくてシルバーフォークとナイフ。おつまみ、突き出しはなくて、この前菜。



「…銀さんコースとか食べたことあるんですか。」

「いや初めて。なにあの説明、一ミリたりともわかんねーんだけど。呪文?」



そういう銀さんについ安心して吹き出してしまった。…いや、それはそれで不安なのだが、それでもここは半個室で幸い周りの目は気にしなくてよさそうだ。私はうろ覚えの知識でひとまず、外側のフォークとナイフを手にとった。



「いただきます…。」

「おー、いただきまーす。」



はて、なぜ自分はこんな場所で銀さんと食事をしているのか。それは、いつものように仕事終わりにご飯に誘われたから。ただ、いつもの居酒屋ではなく、ここはかぶき町で話題の高級ホテルということがおかしいのだ。だって、銀さんも私もここに気軽に来れるほどの身分じゃない。それなのに、銀さんは、わざわざここを予約していたため、すんなりと店内に入れてしまった。



「あ、さっきの話だけど、あれだろ?金のことだろ?気にしなくていーから。俺がちゃーんと払うから。」



そういってご機嫌に笑いながらワイングラスを飲み干す銀さん。…いや、この人なにいってんの。



「……酔ってます?」

「これからだバカヤロー。」



家賃も給料も払えない人が、何を言ってんのかと、つい眉を顰めて睨んでしまう。しかし銀さんは気にする様子もなく、ワインのおかわりを頼む。



「あー…まぁ、正直にいうと、この前なかなか割りのいい仕事が入ってよ、その依頼主からここの招待券もらったんだよ。お得意様ご優待券ってやつ。」

「ああ、なるほど。何割引かになるんですか?」

「いや、タダ。」

「……タダ?」

「そう、タダ。すごくね?」



…なるほど。それでか。何が俺が金を払う、だ。格好つけたな、この人。私はようやく今の状況が腑に落ちたことで、不安から解放され、胸を撫で下ろた。それなら気兼ねなく料理を味わえる…!



「あ、それなら神楽ちゃんや新八くんはどうしていないんですか?」

「あいつらガキにこんなとこもったいねーだろ。それに招待はふたりまで。つまり俺とお前で、定員オーバー。」

「いや、なんでそこでわたし…。」

「嫌なの?俺とこーいうとこ。」



そういって銀さんはテーブルに肘をつき手のひらに顔を乗せてニヤッと笑った。…マナー悪いですよと言い返せば、何照れてんの?といって、銀さんは私のワイングラスに自分のグラスを傾けて音を鳴らした。…なにが乾杯だ、からかいやがって!嫌なわけが、ない。誘ってくれたのが、私だったことは嬉しい。けど、そんなこと絶対に言ってやらない。私はワイングラスを一気に傾けて口に流し込んだ。あー…美味しい…。



「おー、いい飲みっぷり。そのまま酔え酔え。」



なんだか調子が狂う。いつもの銀さんなのにいつもと違うように見える。それは馴染みのある居酒屋じゃなく、こういう雰囲気のある場所だから?だから、いつもちゃらんぽらんな銀さんが少し、本当に少しだけ、ワインを飲む銀さんが色っぽく見えるのだろうか。



「酔って歩けなくなっても大丈夫だからな。」

「こんなところで泥酔は嫌ですよ、恥ずかしい。銀さんもほどほどにして、料理の方を楽しみましょうよ。」



ほら、お肉もあるしデザートもありますよといって、コースメニューが書かれた表を見る。…いや、見てもよく分からないけど、なんとなくコースってそんな感じだった気がする。



「なんたって客室も招待券についてんだよ、ここ。」

「は?」



客室?まぁ、ここはホテルだ。宿泊が可能なくらい分かる。けど、ついてる?招待券に客室が?それって、



「ここでの食事と宿泊がセット、それがこの招待券。で、お前を相手に選んだの。」



フォークとナイフを動かしていた手が止まる。いや、それって、えっと、つまりいつものあれですよね、冗談というか、からかっているんですよね?そう思って、軽くあしらおうとしたら、銀さんの手が伸びてきた。



「なぁ、お前は俺を選ぶ?」



そういって握られたこの手を、冗談だと払いのけるには、あまりにも真っ直ぐで鋭く、熱い視線に、私は顔を真っ赤にするしかなかった。


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