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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

今日は暇だなぁと思いながら午後の店番をしていると、店先でバタンっという音が聞こえた。看板が倒れたのかと思い外に出てみると、看板ではなく人がそこに倒れていた。



「だ、大丈夫ですか?!?!え?意識あります?きゅ、救急車!!」



暇なのは店だけじゃなく今日はかぶき町自体に人が少ないらしく、道端にはどうやら私しかいないようだ。慌てて救急車を呼ぼうとポケットからケータイを取り出した時、微かに倒れている人から声が聞こえた。



「な、なにか言いました?苦しいですか?いま助けをっ!」

「お腹すいた。」

「え?」



その言葉のあとに、それはそれは大きなお腹の鳴る音が聞こえた。





「…見事な食べっぷりで。」

「うん、すごくオイシイからね。あ、おかわり。」

「(まだ食べるの?!)」



空腹で倒れている人に初めて遭遇した私は、救急車を呼んでいいのかも分からず、かといってこのまま放置するわけにもいかないため、とりあえずお店を閉めて、その人を家の中に招き入れることにした。お腹が空いているだけなら満たしてしまえばいいんだと思い、私はひとまず昨日作ったばかりのカレーと、冷蔵庫にある作り置きをの全てを、食べれるだけよかったらどうぞといって、差し出したのだが、



「まさか全部食べるとは…。」

「オネーサンは食べないの?」

「あ、わたしは別に…。」

「んじゃ遠慮なく。」



これだけ食べっぷりがいいと、見ている方は食欲をなくすようだ。それにしても本当に美味しそうに食べるなぁと、目の前のその人を見ていると、ふいにどこかで見たことあるような顔に思えてきた。



「ごちそーさま。地球のもんってオイシイんだね。」

「(地球のもん?)それはよかったです。…もう動けそうですか?」

「んー、迎えが来るはずなんだ。俺ひとりじゃ帰れないし。」

「(どこぞの王子?)」



だからしばらくここにいさせてよ、といって彼は笑った。人助けで自分から招いたとはいえ、見知らぬ男性をこれ以上居させるのは少し気が引けたが、帰って下さいとは自分の性格上言えず、仕方がなく私は小さく頷いた。



「ねぇ、オネーサンって何者?」

「…こっちの台詞ですね、それは。」

「俺?俺は俺だよ?」

「(…天然王子?)」

「こんなオイシイもの作れるってすごいよね。持って帰りたくなっちゃったよ。きっと、阿伏兎も喜ぶ!」

「あ、ありがたいですけど、もうその…全部食べてしまったので、持って帰れるようなものは…」

「あ、違うよ?俺が持って帰りたいのはオネーサン。」



いや、そんな笑顔でオネーサンって言われても困る。これって口説かれてるの?それともからかわれてる?いまいちこの人の意図がわからず、私が返事に困っていると、顔を近づけてきて、本気だよ?と囁かれた。



「(なっ!!!!)」

「あ!」

「え?!」

「迎えが来たみたい。それじゃオネーサンまたね。」

「は?迎え?」



そういって彼は勢いよく立ち上がり、そしてそのまま名乗ることもなく、勝手に家から出て行ってしまった。もちろんお礼も言わずに。そりゃあ空腹で倒れるくらいだから、お金は持っていないんだろうけど、ありがとうの言葉くらいは言って欲しかったな。と、思いながら私は、後片付けを始めた。





「んなもん指名手配だろ。」

「そんな大げさな…。」

「いやいやここだけは銀さんも多串くんに同意だよ?なにそんな危ないことやってんの。知らねぇ男を家にあげるとか、バカなの?」

「人助け、ですもん…。」

「もんじゃねーよ、もんじゃ。もしそこで襲われてでもしたら、どーしたんだよ。」

「じゃあ…あの場合どうすれば…」

「警察だろ。」「万事屋だろ。」

「「……あ゛ぁん?!」」



また喧嘩ですかと、私は気にすることなく、ブックカバーを折り続ける。今日は珍しく、銀さんと土方さんが同時に店にやってきた。その時点ですでに一度、一悶着はあったのだが、飽きずにまた言い合いを始める二人。事の発端は、お店が暇でお客さんが誰一人といなかったため、そういえばとこの前の出来事を二人に話したことからだった。



「警察だ、警察。万事屋なんかに電話してなにになんだよ。」

「名前が危険な目にあってるって知ったら俺もガキ共もすっ飛んでくらァ。警察なんかよりよーっぽど、早くな!」

「おい、警察を舐めんなよ。こっちだって早いわ!!」

「そもそも110番して事故ですか?事件ですか?つーやりとりがメンドクセェんだよ。てかなんでその二択なわけ?ま、それに比べてぇー?万事屋なら、つーか俺のケータイなら?助けての一言で事足りるからね。」

「んなもん決まりなんだから仕方ねーだろうが。それともなにか?てめぇは世の決まりも守れねぇのかよ。つーかな、それで言えば俺だって直接連絡くれれば、もっと早ぇし、なんならすぐに大人数動かしてやれますけどぉ?!」



いやなんの競い合いですか。と、私のツッコミも虚しく、二人の言い合いは延々に続く。私は はひとり、今度ああいうことがあったら、土方さんのいうとおり、警察に連絡するのが妥当だと思い、今度また同じことがあったらそうしようと心に決め、またブックカバーを折ることに専念した。





「あ。」

「また来たよ!」

「こ、こんにちは!」



翌日、さっそく昨日話をした、空腹で倒れているところを助けてあげたのにお礼も言わずに帰っていった人が店に現れた。あ、もしかしてお礼に来たのかな?と思い、私がカウンターのイスから腰を上げようとすると、その人が大きな荷物をどんっとカウンターに置いたため、私は驚いてイスに腰をおろした。



「こ、これはなんでしょう?」

「阿伏兎がね、お礼してこいっていうから。」

「?」

「はい、採れたての」

「きゃああああ?!?!?!??!」



そういってその人が笑顔で大きな荷物をあけると、思いっきり血だらけの動物の死体が転がった。この人笑顔でなんてもの見せつけてくるの?!と、私は驚いてイスから転げ落ちてしまった。そしてそのまま死体を指差し、なんなんですかそれは!と叫ぶと、その人はえ?見てわからないの?と、逆に驚かれた。



「仕留めたばっかだから、美味いと思うんだけど。」

「いやいやいやいやいや!!!!受け取れません!!ごめんなさい!!!!怖いです!!」

「怖い?美味そうじゃなくて?」

「怖いいいい!!!!」



ホラーだ!嫌がらせだ!これ110番していいやつだ!と完全にパニックになっていると、その人は、理解できないとでも言いたげな顔で、じゃあ持って帰るよといって、死体を元に戻した。



「そうしてください!!お願いします!!!」

「じゃあまた出直さなきゃ!」

「え゛っ?!け、結構です!」

「またね!」



なんで人を助けたただけで、こんなことになるんだと、腰が抜けた私はしばらく放心状態のまま、床に座り込んでいた。





それからしばらくして、本当にその人はまたお店にやってきた。



「(まじか…)い、いらっしゃいませ…。」

「これ!」



その人は挨拶もなしにこの前と同じような大きさの荷物をカウンターに置いた。まさか、また死体…?!と私が身構えると、その人は嬉しそうに荷物を開けだした。



「今度は晋助に聞いたから大丈夫!オンナを悦ばすのはこれだって!」

「…いや、なんでそうなる。」



そういって目の前に差し出されたのはなぜか女物の下着で、それも結構なエロティックで、私とは無縁すぎるものだった。これは…これはもうセクハラですね。110番ですね。今度こそ110番ですね!!



「え?これもダメなの?」

「ダメすぎます。どうぞ、お持ち帰りください。」

「えー!なんだよそれー。じゃあオネーサンは何だったら喜んでくれるの?」



そう言われても困る。正直なところ、わたしはもうお礼なんてどうでもいいのだ。でも、何かしたいっていうその人の気持ちは嬉しい。たとえ献上するものが的外れなものばかりでも、きっとこの人は悪気がなくて(そう信じたい)ちょっと世間知らずの、純粋な人なんだろう。



「それじゃあ…まずは、名前。名前教えてもらえますか?」

「あれ?言ってなかった?俺は、神威だよ。」

「神威、さん。じゃあ、神威さん。わたしはお礼の品などいりませんから、その代わりたった一言、言ってもらえたら、それで満足です。」

「物じゃなくて、言葉?」

「はい。」

「なにそれ?面白い!ねぇ、俺は何て言ったらいいの?」



それはですね?といって私がその一言をいうと、神威さんは驚いた表情をし、それから可笑しそうに笑った。オネーサン面白いね、ますます興味湧いたよ、なんて恐ろしいことを言いつつも、神威さんはそれじゃ!といって、やっとあの一言を言ってくれた。



「ありがとうオネーサン!」



私はどういたしましてといって、笑顔を返した。これで、もうお礼は大丈夫ですから。だから、もう来ないでくださいね、とはもちろん言えないけど、ただ遠回しに、お元気で。とだけ、言っておいた。



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