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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!


大事な話をする時は、いや出かける時は絶対にこの町から離れた方がいい。



「こんなとこでなにやってるアルか、ふぷっ、お前ちょっとおめかししてるアルな。男の背伸びは醜いネ。ふぷっ!」

「…てめぇは背伸びしようが何だろうが変わらねぇ、施しようのない残念顔面スタイルでさァ。」

「んだとぉゴラァァァ!!!」



隣で小さく笑う名前をみて口をつぐむ。こんなところでこんな奴の相手をしている場合ではない。



「退け、チャイナ。」

「お前が退くアル。あ、銀ちゃーんっ!」



ここ最近、仕事が忙しく、今日は数週間ぶりの非番だった。数日じゃない、数週間だ。何度かサボって三日月堂に行こうとしたが土方の野郎に捕まって、それすらも叶わず、名前と顔を合わせるのは数週間ぶりだ。何度でも言う、数日じゃない。数週間だ。それなのに、出掛けている最中こいつらに出くわすなんて最悪だ。



「総悟ー、刀から手を離しなさーい。」

「愛刀が武者震いしてるんでさァ。」

「じゃあ優しくおとなしくさせて。」



名前にそう言われつつも、目線は目の前で鼻をほじくりながらニタニタ笑っているチャイナを捉える。あー、真っ二つに斬ってやりてぇ。



「刀にかけてる手を離して、私の手を握ってくれたら嬉しいのに。」



ボソッと名前がそう言ったのを、この俺が聞き逃すわけがなく、隣を見れば、ななななんてね!といいながら顔を真っ赤にしている名前がいた。



「…行きやすか。」



刀からパッと手を離し、目の前のチャイナを無視して名前の手を握り前に進む。そうだ、最初から無視しておけばいいんだ。相手にするから突っかかてくるんだ。こんなところで時間ロスは無駄だ。



「いいねいいねぇ〜若いってーのは。仲良く手なんて握っちゃって?マジ死んでくんね?あ、名前は違うからね?大丈夫、こっちおいで。」

「旦那ァ、その差し出してる汚い手、切り落とされたくなければ、引っ込んどいてくれやせんか。」



だが、チャイナが呼び寄せたせいで、次に目の前に立ちはだかったのは万事屋の旦那。…あーだりぃ。まとめてぶった斬りてぇ。



「で、どこいくのおたくら。」

「銀ちゃん、きっとこのふたり、今からしっぽりしに行くアルヨ。」

「なにィィィ?!?!断じて許しませんんんん!!!」

「許すも何も名前は俺の彼女でさァ。つーかもういいですかィ?てめぇらと話してる時間がくそもったいないんで。」



今度こそ行きやしょうといって名前の手を引っ張る。…ったく、なにニヤニヤしてんでィ。さっさと歩きやがれ。



「ねぇ、総悟。ちなみにどこいくの?なんだか急いでるみたいだけど…。」

「着けば分かりまさァ。」

「おーいたいた!総悟ォォォ!!」

「……次はゴリラですかィ。」



向こう側の車道からやってくる一台のパトカー。窓から身を乗り出してこちらに手を振るのは間違いなく俺らの大将で運転しているのは土方の野郎とみた。



「緊急出動以外は受けやせんぜ。」



近くのコンビニの駐車場でUターンをして、わざわざこちらの歩道側にやってきた近藤さんたちに、何か言われる前にそう言ってやると、土方さんはお前なぁ…と呆れた溜息を吐いた。



「いや、そうじゃないんだ!あ、名前ちゃん、こんにちは!」

「はい!こんにちは!近藤さんも土方さんも、お勤めご苦労さまです!」



そういって俺の隣からひょこっと顔を出してふたりに挨拶する名前。その屈託のない笑みに近藤さんと土方さんも顔が緩む。…あー、バズーカーどこだっけ?



「今日は久々の非番だからなァ!ゆっくりふたりで過ごすといい!何かあっても他の隊員で回せれるし、総悟のいうように本当に非常事態だったら連絡するが、それ以外はふたりの邪魔はせんよ!」



ワハハッ!と豪快に笑う近藤さんに、名前がお気遣いありがとうございますなんてお礼を言って頭を下げている。…近藤さんあんた、



「じゃあなんで呼び止めた理由はなんですかィ?」

「ん?総悟と名前ちゃんが見えたから挨拶しようと思ってな!!!」

「………ゴリラァ…。」

「えっ゛?!」

「言っとくが俺は止めたぞ。」



この人は天然でそういうことをやるから余計にタチが悪い。やり場のない怒りは当然隣にいる土方の野郎にぶつけて(バズーカーを1発撃って)、俺はさっきよりも早足で名前の手を引っ張りながら歩き出した。





「わっ!!」

「大丈夫かィ?あともー少しでさァ。」

「うん、あ、でもこのまま手引っ張ってて!コケそうだから、」

「ちゃんと掴まってなせェ。」



ようやくたどり着いた先は町から少し外れた丘陵。ここからかぶき町一帯が見えて景色がいいのだが、あまり人に知られていない。



「こんなところよく知ってるね!」

「伊達に仕事サボってねーからな。」

「いや、威張るところじゃない。」



てっぺんまで登るには少し足場の悪い道を歩かねばならず、名前がコケないようにしっかりと手を握る。そしてようやく登りきった先は、



「わぁーーっ!!」



腕時計で時間を確認し、目の前の景色を見て俺はほくそ笑む。よかった。道中邪魔が入ってどうなるかと思ったが、どうやら間に合った。



「夕陽綺麗だねーっ!!」



そういって子供のようにはしゃぐ名前の隣に立ち、柄にもなくこれを名前に見せたかったなんて、照れくさいことをいえば、名前は満面の笑みで、ありがとうとお礼を言った。夕陽が真正面にくるこのタイミングを逃したら、みんなまとめてバズーカーで撃ってやろうかと思ったが、この笑顔に免じて許してやることにする。



「総悟はさ、綺麗なもの、たくさん見せてくれたりくれたりするよね。」



それは、と言いかけてやめた。言わなくてもきっと名前は分かっているだろう。俺らの仕事は綺麗事じゃない。それを名前も分かっていて受け止めてくれている。だからこそ、いつだってその目には、手には、名前のその笑顔にふさわしいものがあって欲しいと願うのだ。



「名前、手出しなせェ。」

「手?ふふっ。この景色以外にもまだなにかくれるの?」

「とっておきのもんでさァ。」



そういうと両手を差し出した名前。片方だけでいいといって、左手を自分の手のひらにのせる。そしてゆっくりとポケットにいれていたものを取り出して、薬指に滑らせた。



「え…」

「名前、俺のそばでいつまでもその笑顔、見せてくれやせんか?」

「っ!!」

「護りまさァ、絶対に。んで、この命、名前のために惜しみまさァ。」

「そっ、…ご!」

「俺は生きて名前の隣にいて、その…ククッ、泣きっ面すらも護ってやりやす。だから、」

「うんっ…うんっ!!!」

「結婚、してください。」



笑顔が一瞬で歪んで頬を赤くしながら、子どものように泣く名前を抱き寄せた。あーあ、情けねぇ。何度も頭の中で練習した言葉なのに、驚くほど緊張した。しかも名前につられて泣きそうになった自分の顔なんて、絶対に見られたくねぇ。



「こちらこそっ…よろしくお願い…っします…っ!」



俺の腕の中で泣きじゃくる顔を上げて、名前がそんなことを言うもんだから、愛おしくて愛おしくてたまらなくなって、俺はそのまま名前に口付けを落とした。



「マジかよぉ〜すんげぇイケメンのやる流れじゃね、あれ。」

「あいつなに格好つけてるアルか。こっぴどくフラれてそのまま丘から落ちたら面白かったのに。」

「ちょっとちょっとふたりとも!バレますって!」

「ぐっ…そ、総悟がっ…ついにっ…ついっ」

「泣くな近藤さん、あいつだってもう大人なんだ。ひとりの男なんだよ。」

「んなとこいっててめぇもなに泣きそうになってんだよ。あっれー?もしかして大串くんも感動してんのー?」

「うるせェェェ!!てめぇに関係ねーだろっ!!」



「…うるせぇのは、こっちの台詞でさァ。」

「「「「「あ。」」」」」

「まとめて…死ねィ。」



そのあとバズーカーの音が絶えず丘陵中に響いたが、名前は始終笑顔でずっと薬指の指輪を愛おしそうに撫でていた。


「総悟、大好き。」

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