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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!



「…結婚、してくれ。」







そのシンプルな言い方が銀さんの精一杯だと知っている。額に浮かぶ汗と、力強く握られた拳。わずかに震える声が、とてつもなく愛しい。私は満面の笑みで、もちろんですと言って、銀さんに抱きついた。ああ、ようやく私、プロポーズされたんだな。











「やっとだったな。」



「やっとですよ。あ、土方さんそれは自分でします!」



「長かったなー!名前ちゃん本当におめでとう!!式には是非呼んでくれよ!あ、その重たいのは俺が持つから、名前ちゃんはこっち!」



「ありがとうございます、近藤さん!式は…する資金が皆無です。でも、写真くらいは撮りたいと思っているので、それでよければ是非!」



「なんでィ、それくれぇ旦那も考えてんだろ。」



「そこまで考えてないのが、銀さんだよ。あ、総悟それはダメ!開けちゃダメ!」



「ねぇ、なんで自然にこいつらいんの?なにこれ?錯覚?」



「あ、銀さん!!おかえりなさい。」



「…おー、ただいま。」







鍵が回る音に気がつき、玄関先に目を向けると、げんなりした顔で仕事終わりの銀さんが突っ立っていた。慌てて出迎えるため駆け寄ると、銀さんは嬉しそうに笑いながら、頭を撫でてくれた。おかえりなさいに、少し照れている。







「お!万事屋!邪魔してるぞ!」



「おー、全くもって邪魔だわ、帰れお前ら。」



「こら!銀さん!!」







銀さんの喧嘩腰に土方さんが無言で刀に手をかけたので、慌てて制止する。新居に入ったばかりだというのに、ここで暴れられて何かあっては困る。







「銀さんが仕事で手伝えない代わりに、手伝ってもらってるんだから、冗談だとしてもそういう言い方しないの!」



「冗談じゃねーしぃー?つーか、頼んでねぇーしぃー?」



「はい?わたし前もって銀さんに承諾を得ましたよね?銀さんが仕事だから、みなさんに引越しの手伝いをお願いしたいって。そしたら、頼めっていったよね?それを今さら頼んでない?それって失礼じゃないの?それともなに?すべての荷物、冷蔵庫とか洗濯機とか、その他諸々重たいものを、今日わたしがひとりでやれと?へぇ、いつからそんなひどい男に、」



「ちょ、たんま、たんま!!じわじわくんのやめてくんない?!ていうか言葉の棘がすごいんですけどォォォ?!」







わたしが目を細め、わざと声を低くして詰め寄ると、銀さんは分かりやすく慌てて、無理にいやぁ今日は暑いね!と話を逸らしながら、逃げるように部屋の中に入っていった。







「あっはは!なんだ万事屋!もう尻に敷かれてんのか!」



「うるせェェェ!!てめぇらちゃっちゃと手伝いやがれ!!」



「それが人に頼む態度かよ、おい名前、やっぱ結婚考え直した方がいいんじゃねーのか?」



「珍しく土方さんに賛成ですねィ。名前、戸籍の罰なんかこっちがどうにかしてやりまさァ。」







それは頼もしいですねと、わざとニッコリ土方さんと総悟に返せば、銀さんがそんなこというもんじゃありませんんんん!!といって必死の形相でこちらに駆け寄ってきた。…さっきから、慌て具合が面白い。







「ただいまヨー。」



「帰りましたー名前さん。あれ、銀さんもう仕事終わったんですか?」



「ありがとー!二人とも!結構重たかったでしょ?」



「定春もいたから平気ネ!それよりも銀ちゃんなんでいるアルか?」



「いやここ、俺んちいいいいいい!!!!」







次いで帰ってきた新八くんと神楽ちゃんも玄関先で迎え、荷物を受け取る。二人には家の中よりも外での買い出しをお願いしていた。総悟と神楽ちゃんが、これまた新居で暴れられたらたまったものじゃないという私の意図をすぐ察し、買い物を引き受けてくれた新八くんは本当にいい子だし、もちろん、そんなことは知らずとも嫌な顔1つせず、喜んで買い物に行ってくれた神楽ちゃんもとってもいい子だ。



そんな二人に、片付けがひと段落したら、お礼も兼ねてご飯に一緒に行こうね?といえば、二人とも嬉しそうに頷いてくれた。







「他に何か手伝うことアルか?」



「ううん、もう頼んでた荷物は届いて近藤さんたちが手伝ってくれたし、神楽ちゃんと新八くんのおかげで、必要な買い出しは済んだし、もうお家でゆっくりお片づけかな。」



「はーい、というわけでお前ら帰れー。」



「帰れじゃない銀さん!あの、近藤さんたちもよかったらご飯行きませんか?お礼も兼ねて、」







そう誘うと総悟はいいですねィと言ってくれたが、近藤さんと土方さんは申し訳なさそうに、これから屯所に戻って仕事だと言った。







「それじゃ、また日を改めてお礼させてくださいね!」



「そんな気を遣うこたぁねーよ。それよりも、こいつに嫌気さしたらいつでも保護してやる。」



「わーい!」



「わーいじゃねェェェ!!!」







一悶着後、そろそろ解散しましょうかとなり、真選組のみなさんを見送ったあと、新八くんと神楽ちゃんも一旦万事屋に戻るというので銀さんと二人でまたあとでと見送った。







そのとき、ご飯どこに行こうか?と、二人に尋ねたのだが、神楽ちゃんがどうも気まずそうにするので、どうしたのかと聞くと、どうやらお登勢さんがお祝いの席を用意してくれていることが分かった。



隣で新八くんが、なんでバラすのォォォ?!?!と叫んだので、これはどうやらサプライズだったようだ。さっきまでいた真選組のみなさんも、そのほか交流のあるかぶき町の人たちも集まってくれていると聞いて、胸が熱くなった。



とにかく知らないふりをして、万事屋に行くことを約束したのだが、約束の時間までまだ3時間ほどある。片付けはおいおいするとして、少し休憩するために私はペットボトルのお茶を持って、銀さんの隣に腰を下ろした。





「お仕事お疲れ様です、どーぞ。」



「さんきゅー。名前も悪いな、片付け任せっきりで。」



「いえいえ、これくらいは。ところで、お登勢さんたちのこと、嬉しいですね。」



「俺はもうちょっとふたりでのんびりしてぇんだけど?」



「これからいくらでもできるじゃないですか。この、新しいお家で。」







付き合い始めてからほぼはじめの方で、銀さんは私との結婚を意識していることをほのめかした。それがすごく嬉しくて返事はもちろん決まっていた。それなのに、全然正式な申し出はなく、そのままずるずる何度目かの春を迎えた今年、ようやくプロポーズを受けたのだ。







「(たった一言、でもその重みがあるからこそ、簡単にはいえなかったんだろうけど。…不器用な人だよね。)」







あの銀さんが仕事を真面目に引き受けている。パチンコ屋に行かなくなった。その様子を万事屋の二人に聞いた時、にわかに信じられなかったが、同じことを他の人たちからも聞き、ああ待とう。いつまでもその時が来るのを、この人のタイミングまで待とうと思った。







「…銀さん、幸せです。」



「ばーか。これからだろうが。幸せになんだよ。」



「お互いね。」



「そう、お互いだ。」







そういって銀さんは私の頭を抱き寄せ、そのまま私は銀さんの肩に寄りかかった。優しく髪を撫でられる心地よさが、くすぐったい。ああ、本当に、本当に私は、幸せだ。







「世帯主は俺でさ、」



「ん?」



「連帯人とか、所帯に妻って欄があってよ、そこに名前が名前書いた時、ああ、本当に結婚したんだなって、思った。」



「そこで?!普通、婚姻届じゃなくて?」



「いやー、あれはあれでこう、実感なかったというか、」



「いや、手、すっごく震えてましたけど。」







可笑しく笑えば、銀さんは恥ずかしそうにあの時は寒かったんだよっ!!と言った。暑い寒い忙しい人だな、ったく。







「これからもよろしく頼むな、奥さん。」



「…はい、こちらこそふつつかものですが、よろしくお願いしますね、旦那さん。…というか、」



「ん?」



「銀、とき…銀時、さん?」



「あ、やばいムラっときた。」



「は?!」



「そういや頼んでたダブルベッドもうきてたっけ?ちょっと飯行く前に試しとくか。」



「ふざけたこと抜かしてんじゃないですよ、旦那さん。」







こうして私たちの新婚生活は始まった。







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