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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!


確かに今日は一段と寒くなると天気予報で言っていたが、こんな"警報"が出るまで雪が降るなんて言っていただろうか。



「あれ、土方さん?」



そんな大雪の中、こちらをみて驚く女性を見て、俺も危うく手にしていた煙草を落としそうになった。なんで、お前もここにいるんだ?





「そうですか…。ありがとうございました!土方さん、ここもどうやら満室のようです…。」

「…次、行くか。」



町中で偶然出会ったのは名前だった。ここは、俺らが住む町とは二つほど離れた町で、俺も名前も、仕事でたまたまこの町に来ていたらしい。そして、お互い帰ろうとしたところにこの大雪。足止めをくらい途方に暮れているところで、ばったりということらしい。



「困りましたね、電車も止まって道路も規制。帰る手段が断たれてしまいました…。」

「さっきケータイでニュースみたら、今日いっぱいはこの雪だとよ。」

「…早く宿を探しましょう。体が冷え冷えです。」



そういって鼻を赤くし鼻をすする名前に、俺は首元に巻いていたマフラーを取り、名前の首に巻いた。



「え、あ、大丈夫です!わたしのこのマフラーもずいぶん暖かくて、」

「いいから巻いとけ。つーか、なんでマフラーはしてんのに、手袋はしてねーんだよ。」

「いえ、してたんですけど…。電車のなかで外して、そのままその…」

「電車の中に忘れたのか?」

「…はい……。」



情けないです…という名前に、俺はつい笑ってしまった。電車の中に忘れるとかガキじゃあるまいし、なにやってんだよ。



「次の宿へはどれくらいだ?」

「歩いて五分もなさそうです!」

「んじゃ、行くか。」



そういって俺は今さりげなく名前の手を取り握って、そのままポケットにしまいこんだ。あー、町中でこんなことしてるカップルを目にした時は、なにやってんだバカップルめ、転んでしまえ。なんて悪態をついてたくせに、それを自分が率先してやるなんて。



「…温いだろ。」

「は、はいっ!!!」



握った名前の手はひどく冷たかったというのに、その手はすぐに温かくなり、名前の顔を見やると茹でタコみたいに真っ赤になっていた。それに気を良くした俺はもう一度、名前の手を握りなおし、次の宿へと向かった。





「あー…ちょ、ちょっと待ってください。ひ、土方さん!土方さん!」



次の宿に到着し、受付はわたしが!という名前の好意に甘え、ロビーのソファーで座っていると、カウンターにいる名前に呼ばれた。どうした?といいながら近付くと、名前は少し頬を赤らめてその、と話を切り出した。




「部屋、空いてることは空いてるみたいなんですけど、一部屋だけで…。」

「…っ!」

「その、ベットは!!ベットは別なんですけど!!その部屋が!!」

「わ、わかったわかった…。あー、…構わねぇよ、俺は。」

「え?!?」

「名前が嫌なら、俺は違う宿探しに行くから、お前はここに泊まれ。」

「いいいいいやだなんてそんな!!!」



そんなことはないですけど…といって小さくなる名前に俺は笑いをこらえながら、ならその部屋でお願いしますといって、ようやく今夜の宿を決めた。





「おい、名前。」

「はいいい??!?!」

「…緊張しすぎだ。ベット、窓際がいいとかあるか?」

「な、ないです!」



そうか、といって俺は窓際のベッドに座る。男と二人っきりの密室。緊張するのも無理はないが、部屋に入るなりこの妙な空気。しかも名前はなぜか、



「んで、そんな端っこにいんだよ!!」

「端っこが落ち着きましてはい!!!」

「嘘つけ!!!」



互いにこれまでいい感じに距離は詰めてきたはずで、同じ部屋は、そんな大して問題ないと思っていた。あって緊張や恥ずかしさだと思っていたが、こうも部屋の隅の方が落ち着くと言われ警戒されるとは心外だった。



「…はぁ。おい、寝るぞ。明日始発に乗って帰る。」

「そ、そうですね!!寝ましょう!!」



そういってようやくこっちにきた名前に、少しだけ悪戯心が働いた俺は、名前の手首を掴み、こっちに引き寄せた。



「わっ!!!」

「警戒してんのか?俺がお前を襲うとでも?」

「めめめめ滅相もないです!!!」



そんなことは!一切!なんて叫びながら、俺の腕から逃げようとする名前。耳も顔を赤く体温も熱い。これだけ真っ赤になって動揺するってことは、少しは俺を意識してるってことか。なら、満足だ。



「ほらよ、ったくそんな緊張状態だと寝れねーぞ。」

「うう…ね、寝ます!!寝ますからね!!わたしは寝ます!!」

「おー、寝ろ。」

「寝言言ったりイビキかいたりするかもですけど!!寝ますからね!!」

「はいはい、気にしねーよ。」



ったく、どんだけ可愛いこと言ってんだよ。といいたくなるのを我慢して、俺もベッドに寝転んだ。電気消すぞーといって、ベットの間の机にあるボタンをカチッと押して照明を落とした。



「(…静かだな。)」



部屋がしんとしている。窓の外からも部屋の外からも音が聞こえない。聞こえるのは隣で眠る名前の、



「(寝息??)」



いやいや、いま電気消したとこだぞ?すぅすぅって、…狸寝入りだろ、絶対そうだろ。



「…おい、寝てんのか?」



名前の方に寝返りを打ち、問いかけてみるが返事はない。それどころか、さっきよりも寝息が少し大きくなったような気がする。



「お前…、どんだけ寝んの早いんだよ!!」



思わず俺は起き上がり名前の方を見て頭を抱えた。こっちは、緊張で一向に睡魔がこないっていうのに!



「人のこと言えねーな…。」



名前にああだこうだ言っていたが、一番緊張してそわそわしていたのは他の誰でもない、俺だ。だってそうだろ、普通そうだろ。



「好きな女が隣に寝てるのに、指一本触れることができねーなんて、酷すぎんだろ。」



そんなことをいいながらも、俺の手は自然と名前の頭に伸びる。優しく髪に触れ、そのまま撫でる。本当なら、このまま抱きしめて腕に閉じこめて眠りたいところだが。



「…ったく、無防備に寝やがって。」



そういや今日はこの町に本を探しにきたって言っていたか。客からの依頼でどうしても探して欲しいという願いを叶えるため、今日は一日中、町を歩き回っていたらしい。



「…おつかれさん。」



髪を撫でていた手をそのまま頬にずらし、軽く撫でる。名前が少し身じろぎ、起こしてしまったか?と思ったが、少ししてすぐにまた規則正しい寝息が聞こえてきた。俺は少し考えたのち、目の前の無防備に眠る名前を見て、そのまま頬に口付けた。



「…明日にでもいうか?」



お前に好きだと、言ったらどうなるだろうか。また今日みたいに顔を茹でタコにして、はいと言ってくれるだろうか?もし、そうなったらその時は…。



「…おやすみ、名前。」



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