×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!


リクエスト025

別にこれでどうのこうのとか考えていない。と、いったら嘘になる。考えているからこうしてこれは俺の手にある。



「なんですかこれ?」

「んー、俺から名前ちゃんにプレゼント。」

「え…なに…なんで…どうしました?」

「おい、なんで素直に受けらねーんだよ。」



だって、銀さんからプレゼントなんてありえない。なんて失礼なことを言いながらも、その小さな箱を見つめる表情はとても嬉しそうだ。その笑顔に多少の罪悪感を感じつつも、早くその箱を開けて欲しいと思う自分がいる。



「(まぁ、効果は立証済みだしな。こんな少量ならもって1時間くらいか?ちょっと夢見させてもらう程度だ、うん。別に違法じゃないから、いや違法薬だけど、大丈夫大丈夫。)」



それは先日吉原で大問題になったとあるお香。自分もこれで痛い目(いや、どっちかっていうとオイシイ?)に合ったのだが、その効果は確かなもので、すぐに下衆い考えが頭を過ぎった。もちろん、しばらく頭の中で葛藤したが、ちょっとだけならいいんじゃね?と、結局、自分の欲に負け、すべて処分したと見せかけて、少しだけ拝借しておいた。



「ほら、んな箱ばっか見てねーで、開けてみろよ。」

「じゃあ…」



そういって名前が小さな箱のリボンに手をかけたとき、入り口から聞きたくもない声が聞こえた。



「…んだ、てめぇいたのかよ。」

「……(おまわりィィィィィィ!!!)」



わざわざ名前と二人になるために閉店後を狙ってきたっていうのに、名前はまだやることがあるとかなんとかいって、いつまでたってもシャッターを閉めずにいた。おいおい、こんな大事なときに客が来たらどうすんだ!と思っていた矢先、まさかこいつがやってくるとは思わなかった。



「ひ、土方くんんん?なんの用かなァァァ?」

「あ゛?てめぇに用はねぇよ。」

「いやいやいやいや、俺今臨時で店長やってから!なんか用があんなら俺に、」

「なに言ってるんですか銀さん、そんなこと頼んだ覚えないですよ?」



そういって名前は俺の肩を軽く叩きながら椅子から立ち上がり、手にしていた箱を机において、カウンターから土方の方へと駆け寄って行った。



「(くそォォォ!!!なんつータイミングで来んだよニコチン野郎!!!)」

「土方さん今日はどうしたんですか?」

「頼んでた本、取りに来た。すまねぇな、なかなか支払いにこれなくて。」

「大丈夫ですよ!ちょっと待ってくださいね。」



えーっと、と言いながら名前はカウンター後ろの戸棚から本を探る。…なんだ、本を買いに来ただけか。それなら大人しくこいつが去るのを待ってればいいか。そう焦る自分を落ち着かせた。



「お待たせしました!では、お会計しますね!銀さんちょっとそこどいて下さい。」

「へいへい。」



俺は名前に言われるままカウンターから退き、適当に本棚の前に移動する。その間、名前と土方クンは何やら楽しげに会話をしながら、お金のやり取りをしている。…気に食わねぇ。



「あ、そうだ聞いて下さいよ土方さん!銀さんがね、急にこれ。プレゼントだって、くれたんです。」

「プレゼントだァ?」



…へ?なんて?名前何言ってんの?!なんで俺があげたプレゼントを土方クンに見せてんの?!?!



「名前ちゃんんんん?!?!」

「何が入ってんだ?」

「それが教えてくれなくて。土方さんも気になりますよね?」



名前の問いに野郎は確かにと返事をし、それに気を良くした名前が、なら今ここで開けてみましょう!と、訳のわからないノリで、箱に手をかけた。



「待て待て待てェェェ!!!」



慌ててカウンターに走り寄るも、既に遅し、名前はするりとリボンをほどき、箱を開けてしまっていた。



「なんだこれ?」

「…粉?」



やっちまったァァァ!!おまわりの前で違法の薬開けちゃったァァァ!!!どうにかして言い訳を!と、焦ったのが悪かった。俺はなぜか何もないところで躓き、そして手にしようとしていた箱の縁に手がかかり、そのまま箱をひっくり返してしまった。



「……。」



ほとんどそこからはスローモーションに見えた。ひっくり返った箱から飛び出す粉は、名前に降りかかり、その粉末をおそらく、いや絶対に吸ってしまった名前が大きく咳き込む。そして、大丈夫かと名前の側に回る土方クン。



「だ、だめェェェ!!!」



ダメだダメだダメだ!!!!愛染香を嗅いで最初に見たやつが野郎なんて!!そんな展開望んでねーんだよ!!!いや待て!!落ち着け俺!!あくまでも粉末を嗅いだだけであって、焚いたわけじゃない。そう、これはお香。焚かなきゃ意味がない!そうだこれはノーカウントだ!!大丈夫だ!!そうだよな?!名前?!?!



「お、おい…大丈夫?名前チャン。」

「び、びっくりしました…コホッ、」

「なんつーもん差し入れしてんだよ、てめぇは!!おい、名前、大丈夫か?水いるか?いや、その前にかぶってる粉を振り落さなきゃな。」



そういって土方クンが名前の肩に手を触れた途端、名前はこっちが驚くほど後ずさりし、そして口元を押さえながら、顔を赤らめた。え、…嘘だよね?え?なんで顔赤いの?なんで?



「おい、名前どうした?」

「あ、や…えっと…あの…」

「名前?」

「っ!!!」



おいィィィィィィ!!!土方クンが名前呼んだだけで何その反応!!可愛すぎなんだけどォォォ?!?!つーか、マジかよ、粉吸っただけでも効果あんのコレェェェ?!?!



「…とにかくこっちこい。粉落としてやるから。」

「だ、大丈夫で、す…自分で、」

「いいから。」



そういって土方クンが強引に名前に手を伸ばし引き寄せると、名前はこれでもかってくらい顔を赤くして、そしてなぜが潤んだ瞳で、どうしよう…と呟いた。



「こっちがどうしようじゃボケェェェェ!!!」

「え、」

「名前!目を覚ませ!!!そ、そうだ顔洗えばいいんじゃ?!鼻うがいだ!鼻うがい!!」

「おい、待てお前、なんの話してんだ!?」

「ちょ、銀さん離して!わたし、土方さんに…!あ、あの、ひ、土方さん…っ!!」



名前の純粋すぎる態度に我慢できず、思いっきり名前の肩を掴んで揺さぶる。おいおいおい、なにこれ、どんな展開?なに言おうとしてんのこの子?やべェ、冷や汗出てきた。マジでこんなことになるなら、あんなもん持ってくんじゃなかった…!!



「ど、どうしたんだよ、名前。」

「土方さんっ…そのっ…わ、わたし!!」

「あーあーあーあァァァ!!!!!」

「うるせぇェェェェェェ!!!」



ついに俺の煩さに土方クンは我慢の限界らしく、俺の胸倉をつかんで突っかかってきた。舐めてんのか?てめぇ舐めてんのか?と瞳孔開ききった目でキレられているが、お前のことなんて今はどうでもいいんだよ!!



「ちょ、お前マジで帰ってくんない?頼むわ、ほら300円あげるから。」

「ふざけんな。つーか、なんなんだよさっきから!!」

「てめぇのせいでこっちは予定狂ってんだよ!!!頼むからさっさと帰れ!!」

「ぎ、銀ちゃん!土方さんに乱暴しないで下さい!!」

「うるせェェェ!!!目を覚ませ名前!!お前は今、脳神経がやられてんだよ!!!お前が今思ってることは空想だ!!いいか?!空想!!はい!リピートアフタミー?!?!」



俺の言ってることがやっぱり分からないようで、名前はまだ目を潤ませたまま、俺を見上げ首を傾げた。…クソォォォォォ!!!可愛いなこんちくしょー!!!これを俺は独り占めしたかったんだよォォォ!!!



「…万事屋。」

「んだよ!!!てめぇも勘違いすんなよ!!!今の名前は名前じゃねぇんだからな!!」

「その話、詳しく聞かせてもらおうか。」

「あ。」



ついボロを漏らした俺は、このあとすぐ、土方クンの手により手錠をかけられ、元に戻った名前には最低と言われ、誰がチクったのか(ドエス野郎に違いねェが)屯所に迎えに来た新八と神楽に冷たい目で見られた。

そして、俺以外のやつにこの薬の効果が効くのはもうごめんだと反省した俺は、実はまだ隠し持ってた愛染香を、多少名残り惜しくも、全て処分することにした。

女はやっぱり真正面から口説くもんだな。



戻る