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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

急に近藤さんが半休をくれた。ここ最近仕事詰めでろくに休んでないだろうといいながら、小声で名前ちゃんに最近会ってないみたいだから、会ってきなさい!なんて、とんだお節介でくれた半休だった。



「(けどま、ありがたいもんはもらっとくとするか。)」



実際ここ数週間はでかい討ち入り後の報告書や、始末書などに追われていて、見回りついでに名前に会いに行くことができずにいた。電話で話ししたのも、ありゃ何日前だ?



「…チッ、でねぇ。」



ケータイを取り出し名前に電話をかけたが、コール音が何回か鳴ったあと、留守番電話サービスに繋がった。そういや今日は何曜日だ?そうか、店は休みじゃないのか。なら出ないのは当たり前かと、変に胸騒ぎがする自分を落ち着かせ、隊服から着流しに着替え、屯所をあとにした。





「…まじかよ。」



三日月堂に着くなり、俺は入り口の張り紙をみて、盛大にため息をついた。“出張買取中。”つまり、ここに名前はいない。ケータイを確認しても着信はない。屯所を出る前に仕事が片付いたからそっちに行くと送ったメールの返信もなし。



「…どこまで行ったんだ?」



すぐ帰ってくるなら近くのファミレスで時間を潰すこともできるが、このままではどうしようもない。一旦屯所に帰るか?と考えていると、手に握っていたケータイが震えた。



「もしもし?」

「あ!土方さんおつかれさまです!」



画面を見ることもなく通話ボタンを押した自分の行動に苦笑しつつも、電話の相手はやっぱりというより、そうであって欲しいと思っていた名前だった。



「すいません、電話もらってたのに…。」

「仕事だろ?気にすんな。いまどこだ?」

「いま隣町から帰る途中で、あっ!」

「どうした?」

「ちょ、銀さんんんんん!!!なに買い取ったもんぶちまけてんですかァァァ!!!」

(ちょ、俺悪くねェェェ!この紙袋!紙袋の底が破けたんだよ!)



どこか分かればすぐに車を出して迎えに行ってやると言おうとしたのに、電話の向こう側で名前はぎゃあぎゃあと叫びだした。しかも相手がいる。それも万事屋ときた。



「(ほぉ〜…万事屋と隣町だァ??)」



だんだん、というより一気に苛立ちが増し、こめかみが痙攣する。一体どういうことかと、なるべく落ち着いた声色で名前に問いかけるが、まだ万事屋と揉めているのか返事がない。



「…おい、名前。」

「もう全部拾ってくださいよ!!あ、ごめんなさい土方さん!」

「もういい。落ち着いたら連絡くれや。」

「え?ちょ、」



名前の返事も聞かず俺はケータイを耳から離し、通話を切った。あー、腹が立つ。なんであいつと一緒にいる?店でならまだしも、一緒に出かけるなんざ、どういう気でいんだ。



「…くそっ、屯所戻るか。」



俺は、ケータイの電源を落として、気分を落ち着かせるためにタバコに火をつけた。





屯所に戻って結局俺は仕事の続きに手をつけることにした。早々に戻ってきた俺を見て近藤さんは何か言いたそうにしていたが、空気を察してか、声は掛けてこなかった。そうして時間とケータイをわざと気にすることなく、しばらく机に向かっていると、廊下から慌ただしい足音が向かってくるのが聞こえてきた。



「土方さんんんん!!!!」

「…。」



勝手に襖をスパーンと勢いよく開けて部屋に入ってきたのは名前だった。



「(…足音でわかるっつーの。)」

「土方さんんん?!?!」

「…なんだ。仕事終わったのか?」

「は、はい…!えっと、その、」



そういって名前は恐る恐る俺の隣に来て、正座をした。俺はあえて筆を止めず、名前を見ずに、どうした?とだけ聞いた。



「その…電話が切れて…電源も落とされて連絡がつかなかったので…来ました。」

「何か用か?」

「……土方さん、お仕事お休みだったんじゃ?」

「あぁ、でもやることがなくなったから結局仕事してんだよ。」

「…怒ってますね。」

「怒ってねーよ。」

「怒ってるじゃないですか。」

「どこが。」



…なんだこのやりとり。幼稚過ぎるというより、俺なんか女々しくね?なんて分かっていながらも、まだ名前に視線は向けない。



「たまたま隣町で会っただけです。買い取った荷物が多かったので手伝ってもらいました。」

「あぁ、そうだろうな。万事屋と仲良いもんなァ。」

「…ええ、万事屋さんと仲良しです。神楽ちゃんも新八くんも、重たい荷物持ってくれました。感謝しています。」

「そうかよ…って、は?」



思わず手が止まり名前を見やると、名前は目いっぱいに涙をためて唇を噛んでいた。



「その冷たさはあれですか!!わたしが銀さんとふたりで出掛けてたと思ったんですか!?だったら違います!!神楽ちゃんも新八くんもいましたけど?!?!」

「お、おい、」

「なんなんですか!!嫉妬ですかこのヤロー!!嫉妬は嫉妬でも、こ、こんな冷たい態度は嫌です!!」



そう叫んだ後、名前は堰が切れたように泣き出し、そしてギュッと俺の袖を引っ張った。



「ご、ごめんなさいっ…勘違いさせたなら謝りますから…っあやまるっ…からっ…冷たくしな、っ…いでっ…!」



ああ、もうなんでこうなるんだ!俺は頭をがしがしと掻きながら、名前を抱きしめた。



「あー…悪かった。泣くな。」

「だって…っ!」

「お前と万事屋が…あの野郎とって…考えただけで、その…なんだ。…女々しい男で悪いな。」

「うぅ〜っ…わ、わたしは!土方さんが好きです!土方さんだけなんですってば…っ!」



信じて下さいという名前に信じてないわけじゃないといって、強く抱きしめた。そう、信じてないわけじゃない。だけど、好きだという気持ちが大きくなればなるほど、比例して独占欲も増していく。



「面倒な男に捕まったな。」

「で、でもっ、…はな、…離しませんからっ…ね!」

「…!ったく、お前はなんでそんなに、」



愛しいんだろうな。そんなこと言われたら、余計に自分だけのものにしたくなるじゃねーか。わかってんのか、この天然女。



「今日は俺が悪かった。詫びに好きなもん食わしてやるよ。どこがいい?今からどこにいく?」

「…っしばらくこう!!」

「わ、わーったからちょっと力抜け!締まる!」



俺の背中に手を回しぎゅっと抱きついてくる名前に俺は笑いながら、もう一度耳元で悪かったなと囁くと、名前は小さく頷いた。



「(あー…この支配欲は治りよーがなさそうだわ。)」



言葉と裏腹に反省してない自分に苦笑しつつも、ここまで自分を虜にした名前も悪いだろなんて、完全な責任転換を考えながら、俺はそっと名前の髪に口づけを落とした。



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