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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

前から仲がいいことは知っているし、少なくともこいつとの出会いがきっかけで、仕事ばかりだった名前が変わったことも、名前本人から付き合う前に聞いている。



「(しっかし、こうもなぁ…。)」

「もう!邪魔ですよ、銀さん!」

「客に邪魔ってそりゃないんじゃねーの?」

「お客だっていうならたまにはなにか買っていってよ。」

「金ねぇ。」

「万年金欠プー太郎さんめっ!!」



いつも見回りの時に少しでも名前の顔を見るために店に寄るようにしているのだが、ほとんどといっていいほど、こいつがいる。



「あっれー、大串くんじゃない?」

「へ?あ!ひ、土方さん!!」

「…おつかれさん。今日はどうだ?」

「調子いいですよ!土方さんはどうですか?」

「まぁまぁだな。…んで、てめぇはなんでいんだよ。」

「は?客ですけど?」

「はっ、何か買うわけでもなく居座りやがって迷惑な客だな、名前こいつしょっ引いてやろうか?」

「え?いやいやいや!だ、大丈夫です!」



何が大丈夫なんだよ、全然大丈夫じゃねーだろ。ていうか俺が大丈夫じゃねーわ。



「んじゃ、俺ァそろそろ行くわ。おまわりさんも怖いことだしぃー?」

「…チッ、さっさと行きやがれ。」

「あ、待ってください!えっと…これ!ご近所さんに頂いたんですけど、食べきれないからよかったら!」

「おー!リンゴじゃねーの。」

「神楽ちゃんと新八くんとあと、お登勢さんたちにも!」

「この一箱もらっていいのか?」

「まだ一箱あるので!」

「じゃあ、ありがたくいただくわ。」



そういってやっと店から出て行くあいつを、律儀にも店の外まで送り出す名前に無性に苛立ちながら、無意識に手がポケットの中のタバコを探す。



「あ!店内は禁煙ですよ!」

「あ?あー…分かってるよ。」

「もう閉店の時間なので、よかったら上がっていきませんか?って、すいません…見回り途中ですよね…」

「…いや、上がってく。」



俺がそう言うと、名前はパッと笑顔になって、急いで作業してしまいますね!といって忙しく動き出した。そして、灰皿はテーブルの上にありますから!と言われ、つい頬が緩んだ。わざわざ、自分のために灰皿を用意してくれてるあたり、自分は愛されているなと感じずにはいられない。





「お待たせしました!まだ、時間は大丈夫ですか?」



作業を終えた名前は、居間に戻ってくるなりそう声をかけながら台所へと入っていた。俺は、名前に聞こえるようにと少し大きめな声で、まだ大丈夫だと返事を返すと、よかったー!という声が返ってきた。



「これ!土方さんに食べてもらいたくて!」



そういって名前が持ってきた涼しげなガラスの皿に目をやる。これは、



「…リンゴ?」

「リンゴのコンポートです!」



コンポート?なんだそりゃ?と聞けば、名前は果物を水や砂糖で煮た料理だと教えてくれた。



「あ、ちなみにこれは水のみで煮たんです!リンゴそのものの甘さなので、甘いのが苦手な土方さんでもきっと食べれるかと!」

「ほぉ。」



はいどうぞ、と渡された爪楊枝で、初めてコンポートやらを食べてみたが、確かに嫌な甘さはなく、果物そのものの甘さが引き立っていた。普通にリンゴを食べるよりも、ちょっとクセになる甘さだなといえば、名前は嬉しそうによかったと胸をなでおろした。



「果物は栄養も抜群ですから!たくさん食べてください!日持ちもしますから、よかったら屯所に持って帰りますか?」

「……いや、ここで食う。持って帰ると誰かに食われる可能性があるからな。」



そう言いながらまたリンゴに手をつける。うん、これはうまい。



「…マヨネーズはダメですからね。」

「なっ!か、かけねーよ!!」

「…でも、一瞬考えませんでした?」

「ば、バカ言え。…考えてねーよ。」

「怪しい!その間は怪しい!」



名前は可笑しそうに笑いながら、お茶を淹れた湯呑みを差し出してきた。それを受け取りながら、俺の考えてることを分かるようになってきたとは恐れ入るななんて冗談を言えば、名前は嬉しそうに笑った。あー、この笑顔。この笑顔が、俺を何とも言えない気持ちにさせる。



「…あいつにはこれやったのか?」

「あいつ?」

「天パ。」

「銀さんですか?これっていうのは、このコンポート?」

「好きだろ、あいつ甘いもん。」

「そうですけど、」



我ながら馬鹿げた問いかけだとは思う。自ら試すような言い方をして、小さい男だと思われても仕方がない。けど、それでも黙っていられないほど、いつもあいつが名前のことを考えるときにちらつきやがる。この笑顔は俺だけのものなのに、なんて思いながら。



「…銀さんが甘いもの好きなのは知ってますけど…そうですね、そう知ってたのに、リンゴをもらった時、一番最初に思ったのは、土方さんに何か差し入れしたいなー、でした!」

「は?」

「土方さんリンゴ好きかな?でも普通に渡すにはつまらないから、なにか作りたいなー、でも甘いお菓子は苦手だろうし…そうだコンポートなら食べれるかも!って思いました。」

「…。」

「それから作ってる時は、お口に合うかな?まずいって言われたらどうしよう!とか考えて、水で煮るだけなのに、やたらと味見しちゃいましたよ!」



おかげでリンゴをひとりで食べすぎちゃいました!なんて笑う名前に、俺はなんてつまらない問いかけをしたんだろうと、案の定自己嫌悪しつつも、自分が思っていた以上の答えが返ってきて、ニヤけずにはいられなかった。



「ふふ、わたし頭の中は土方さんでいっぱいですよ。」

「そーかよ。」

「驚きました。」

「ん?なにがだ。」



そういって名前の手を引いて抱き締めれば、名前は俺の腕の中でまた小さく笑いながら、嫉妬してもらえるなんて驚きましたといった。



「…するだろ。」

「喜んだら怒りますか?」

「…怒らねぇが、わざと嫉妬させるようなことはすんなよ。」

「しませんよ!でも、それは土方さんもですよ?」

「俺に嫉妬するようなことねぇだろ。周りに男しかいねぇってーのに。」



そういうと名前は勢いよく顔を上げて、何を言いますか!と顔を膨らました。…んだその顔、可愛い過ぎんだろ。



「ちょ、ほっぺたプニプニしないでください!怒ってるんですよ!わたし!」

「何急に怒ってんだよ。」

「自覚です!自覚!」

「自覚だァ?」



土方さんは格好いいんです!モテるんです!真選組の評価はあれですが、個人としては格好いいと町の女の人に囁かれてるのを知らないんですか!と、名前は怒り出した。



「…ほぉ。それにお前は嫉妬していると?」

「そうです!!一緒に歩いている時も視線感じますし…嫉妬しますよ、そりゃあ。」



そう言われてさっき名前に言われたことを思い出した。



「…喜んだら怒るか?」

「お、怒りませんけど〜…土方さんもわざと嫉妬させるようなことしないでくださいね?」

「くくっ…しねぇよ。」



鬼の副長だなんて名が泣くな、なんて考えながら、まだ膨れた名前の頬に手を添えて口づけを落とすと、名前はまた嬉しそうに笑った。



「甘ぇな。」

「…甘いのも悪くないですか?」

「…あぁ、悪くねぇな。」


名前とならどんな甘さも大歓迎だ。



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