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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

今日はお互い仕事が休みで、久々にふたりでゆっくりできると思ったのに、どうやら土方さんは休み返上で書類仕事をしないといけなくなったらしい。じゃあ今日は会えないのかと思っていると、土方さんは、何か暇つぶしになるものを持って屯所に来いと言ってきた。





「お邪魔します…。」

「来たか。」



屯所に着くと、門の前で土方さんが煙草を吹かしながら待っていた。嬉しさのあまり駆け寄ると、土方さんは何も言わず頭を撫でてそのまま中へと案内してくれた。



「いいんですか?一般市民が入っても…。」

「一般市民じゃなくて、副長である俺の女な。それに近藤さんの計らいだ。気にすることはねぇ。」



俺の女というキーワードについ反応してしまい頬が赤くなる。それを誤魔化すために、私は慌てて持ってきた手土産を土方さんに渡した。



「これ、みなさんで召し上がって下さい!」

「気遣わせたな。ありがとよ。ちなみに中身はなんだ?」

「近藤さんが好きだっていってた甘味です!」



土方さんの職場にお邪魔するのだから、偉い人の好みのものを差し入れするのは当然です!と私が威張れば、必死にどうすりゃいいか悩んで調べたんだろ?とすぐに見透かされてしまった。



「土方さんの恋人として恥のないようにと…。」

「気負いすぎだろ。でもまぁ…、」



いつ嫁に来ても大丈夫だなと、土方さんに言われ、私はその場で硬直し、そしてすぐに慌てふためいてしまった。な、なんてことをさらりとこの人は…!





「ここが土方さんのお部屋?」

「書類で散らかってて悪いな、適当に座ってくれ。」



近藤さんに軽く挨拶を済ましたあと、そのまま案内されたのは土方さんの部屋だった。初めて入る男の人の部屋にドキドキしながらも、部屋はいつもの匂いがして、落ち着いた。土方さんの煙草の匂いは嫌いじゃない。



「どれくらいお仕事が残っているんですか?」

「…この山が署名で、この山が整理するやつ、この山が、」

「わかりました、この部屋にある書類ほとんどってことですね。」



完全に舐めていた。書類仕事っててっきり数十枚かと思っていたのに、数十枚どころじゃない。しかもこれプラス、外業務や隊士さんたちの指導もあるのだから、鬼の副長さんとやらはとても大変な役職のようだ。



「何か手伝えることがあれば手伝いますから、言ってくださいね?」

「おう。まぁ、大丈夫だ。全部今日中にやる奴じゃないからな。数時間だけ、仕事させてくれ。」

「数時間?」

「キリがいいとこでやめる。それからどっか行くぞ。」



てっきり今日はどこにも行けないと思っていた。それが顔に出ていたのか、土方さんは笑って、どこ行くか考えとけよ?といった。



「あぁ、それから暇つぶしになるもん持ってきたか?」

「え?あ、はい…読みかけの小説を!」



ここ最近、私も仕事が忙しくてゆっくり本を読む時間が取れずにいた。だから、ちょうどいいと思って文庫本を持ってきていた。



「んじゃ、やるとすっかな。」

「ふぁいとです!」



私がガッツポーズをして応援すると土方さんは可笑しそうに笑って、そして机に向かった。その瞬間、土方さんは仕事モードに入ったのか、笑顔をは消え、鋭い目つきで黙々と手を動かし始めた。



「(か、かっこいい…。)」



笑う顔も好きだが、土方さんの仕事をしている時の顔はもっと好きだ。このままずっと見惚れていたいが、視線が邪魔になってはいけない。私は思い出しかのように文庫本を手にし、それからは、あっという間に私も物語の世界へと入り込んだ。





「名前?」



名前を呼ばれてハッとする。あれ?なんで視界が反転して土方さんが上にいるんだ?それに、頭のこの感触は、なに?



「ヨダレ、出てんぞ。」

「嘘?!」

「嘘だ。」



え、嘘?本当に?手を口元に持っていき隠すと、土方さんは可笑しそうに本当に出てねーよといった。なんだ、冗談か。…って



「こ、これは?!」

「日向ぼっこして気持ちよくなったか?」



壁にもたれかかって本を読んでいたはずなのに、気が付けば私は土方さんの膝で寝転んでいた。俗に言う膝枕というやつだ。



「い、いつの間にわたし…」

「さぁな。ただ、俺の膝でも長いこと気持ちよさそうに寝てたぞ?」



そういって土方さんは私の髪を優しく梳き、おでこにキスを落とした。



「…お仕事は?」

「キリがついた。」

「…どこ行くか考えてませんでした…。」

「じゃあしばらくこうだな。」

「いや、それは!脚疲れますし!ていうか長いことってどれくらい?!本当に痺れたりしてませんか?!」

「俺が好きで勝手に寝かしたんだ、気にすんな。つーかあんまそこで動くな!」

「!す、すいませんっ!!」



急に膝枕されていることが恥ずかしくなって、起き上がろうとしたが、土方さんにそれを阻止されてしまった。仕方がなくそのまま仰向けになり、私は大人しく土方さんの顔をまじまじと見た。



「なんだ?」

「綺麗だなーって。」

「は?男に綺麗ってなんだよ。」

「だって、土方さん綺麗な顔立ちなんですもん。」

「…あっそ。つーか、お前いつまでその話し方なんだ?」

「話し方?ですか?」

「敬語、もういいだろ。」



そうはいっても年上に変わりはない。それに付き合う前に比べたら多少、敬語も緩くはなったほうだ。完全にやめるのは無理ですというと、じゃあせめて名前で呼べと土方さんは要求してきた。



「な、名前ですか…。」

「恋人なんだから当然だろ。ほら、呼べ。」

「…と、…と?」

「なんの疑問だよ。…お前まさか俺の名前知らねぇとか言わねぇよなぁ?」



まさか!それはない!それはないからその鋭い目つきやめて下さい!といえば、じゃあ早く呼べと土方さんは、私のほっぺをつねりながら急かしてきた。いや、私が悩んでいるのは、十四郎さんと呼ぶべきか、トシさんと呼ぶべきかなんですよ!



「と……十四郎…さん?」

「……おう。」

「嫌、ですか?」

「…全然。返事しただろーが。」



そういって土方さんは私を抱き起こし、そのまままキスをした。



「…もういっかい。」

「十四郎さん…。」

「いい子だな。」



土方さんは満足そうに笑い、また小さくキスをしたかと思うと、すぐにまた今度は深く、深くキスをした。



何をするわけでもない、ただ一緒にいれるだけでこんなにも幸せな時間が過ごせるなんて、なんて素敵なことなんだろうと私がぽつりというと、土方さんもそうだなといって、そのまま私を押し倒した。



「…え?(押し倒し…?)」

「何もしないわけねーだろ。」

「は?いやいやいや!ま、待って待って土方さん!」

「おい呼び方間違ってんじゃねーよ、お仕置きな。」

「わー!十四郎さん!!!」



あなたといれるだけで、私は十分です。



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