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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

いつものようにスナックお登勢で銀さんと呑んでいると、お登勢さんがこれいらないかい?とチケット二枚を差し出してきた。



「なんだこれ?」

「遊園地の招待券。知り合いからもらったんだけどねぇ、あたしゃもう遊園地なんざ行く年齢じゃないからね。あんたらにどうかって。」

「わぁ!嬉しいです!これってタダ券ですよね?」

「入場料が無料なだけで、交通費とかはかかるからね。」

「銀さん行きましょう!タダですよタダ!」

「そうタダを強調すんなよ、名前ちゃん恥ずかしいやつになってんぞ?」

「何言ってんですか、タダでもなかったら遊園地なんか連れてってくれない銀さんの方が恥ずかしいわ。いいですか?ここ最近、私とデートした場所言ってみてくださいよ。どこですか、どこ。」

「…公園?」

「あんた公園って…名前、なんでこんなやつを選んだんだよ。もっとあんたなら選ぶ相手いただろうに。」

「いやぁ、まぁ金欠なのは承知の上だったんですけど、まさかこうも毎度デートが公園だと、そうですね、さすがにちょっと…」

「は?!えっ?!待て名前!さすがにちょっとってなに?!それなんのフラグ?!」

「とーにーかーく!タダなんですから行きましょ!ね?銀さん!」



そういって無理矢理、約束を交わして、その週の日曜日、銀さんと一緒に遊園地デートをすることになった。





「晴天ですね!」

「…名前。」

「はい?(ふ、不機嫌?)」

「まずはあれつけていこうぜ。」



遊園地に着くまでの間、銀さんはいつもより口数が少なかったので、てっきり不機嫌なのかと思いきや、銀さんが指差したのは、この遊園地のキャラクターの耳がついたカチューシャだった。



「…バカですか。」

「お前ねぇ、遊園地にきたら大人も子どもも関係なくはしゃぐのが当然だろうが。ほら、あそこの子どもも、あそこのカップルもつけてんだろ?だから名前も、」

「そんなことよりも銀さん!乗り物!乗り物に行きましょう!!」



銀さんの手を引いて、私はガイドマップを見ながら気になる場所へと移動を始めた。銀さんはまだカチューシャのことを言ってくるが、そんなのは無視だ。さすがにあれは出来ない。恥ずかしい!いや、でもまぁ銀さんがつけているのは見てみたい気もするけど…。



「あ、ポップコーン!おい、名前あれ食おうぜ!」

「もう?!まず何か乗り物に乗りましょうよ!」



本当は少し無理矢理連れてきた感があって、銀さんがあまり乗り気じゃなかったらどうしようかと不安だったのだが、どうやらそんなことはなさそうだ。たぶん、楽しみすぎて口数が少なかったんだろう。そういえば電車の中でも窓の外を見てキョロキョロしていたっけ。



「よし。じゃ、まずはあれからだな!」

「ふふ、行きましょう!!」




それからしばらく園内を堪能し、これで大体の乗り物は乗ったかな?とベンチで休みながらガイドマップを見ていると、ひとつ行っていないところに気が付いた。



「銀さーん。」

「ん?なに?こっちのアイスいる?」

「…いる。」

「はい、あーん。」

「…ここ外ですよ。」

「んなの誰も見てねーって。俺らみたいなカップルなんてそこらへんにいんだから。な?はい、あーん。」

「あ、あーん…。」



確かに周りを見渡せばカップルが多い。手を繋いで歩いてたり、二人で写真を撮ったりは普通として、中には盛り上がりすぎて抱き合ったりしている子達もいる。確かに人の目なんか気にしてなさそうだ。



「んで?どうした?」

「これ、ここだけ行ってないの。」

「…いや、いいんじゃね?」

「え?」

「もう十分楽しんだしぃ?もう銀さんへとへとだしぃ?あとはそうだ、売店!売店見て回ろうぜ!神楽たちに土産も買っていかねーとな!」

「銀さん?」

「いっやー今日は楽しかったなー!あはは!」

「…つべこべ言わず行きますよ。」

「ちょ、まっ!待て待て!落ち着け!んなとこ行ってもなんもねーって!な?!名前ちゃんんん?!」



銀さんの必死の叫びのせいで、周りからの視線が痛いが、私は無理矢理銀さんの手を引いて、その場所へと向かった。





「…ここですね!」

「……。」

「あ!歩くタイプじゃないんだ!銀さんよかったですね!アトラクション型ですよ!乗っとけば連れてってくれるやつですよ!」

「どこに?!地獄に?!」



ガイドマップで唯一行ってなかった場所とは、遊園地といえばお決まりの、ここお化け屋敷だ。もちろん銀さんがその類のものが苦手嫌いであることは知っている。



「おいおいおいおい名前ちゃんまさかとは思うけどこれに乗るとか言わないよねぇ?」

「え?」

「ってもう並んでるうううう!!!」



銀さんのその酷い怯えようについ笑いたくなるが、ここは我慢だ。きっと笑ってしまえば銀さんは怒って帰ってしまうだろう。それだけは阻止したい。だってせっかくのデートなんだから。



「銀さん、実はいうわたしも怖がりなんですよ。」

「バカなんですかァァァ?!どこまで名前ちゃんはMなんですかァァァ?!」

「でもほら、あれ。あれしてみたくって。」



そういって私が視線を向けた先には一組のカップルが。彼女が怖いと怯えて彼氏の腕に抱きついている。彼氏は大丈夫だからといって、彼女の腰に手を回し、そしてそのままアトラクションに乗り込んでいった。



「はぁ?んなのいつでも銀さんの腕に抱きついて、」

「喜んでっ!!」

「いやうん、可愛いなちくしょー。つーか、それだけならこんな場所じゃなくてもよくね?なんなら今からホテルにでも、」

「うるさい。それよりも銀さん腰に手は?」

「喜んで。」



我ながら恥ずかしい台詞だとは思うが、銀さんはあっさり従ってくれた。そして腰に手を回された手はぐっと私を引き寄せ、一気に距離が縮まった。自分で言い出したこととはいえ恥ずかしくなる。銀さんはもしかして今日は積極的な日?とかいって笑っている。よし、これなら大丈夫だろう。



「お次は2名様ですね!どうぞ、足元にお気をつけてお乗りください。」

「は?」

「よし、行きますよ!!」

「おいいいい!!!いつのまに順番が!?ちょ、お姉さん俺乗らない!俺乗らないからこのバー上げて!!」

「安全のためしっかりバーを下げてくださいね!それでは逝ってらっしゃい!」

「お姉さんんんんんん!!!行ってらっしゃいが逝ってらっしゃいになってるううう!!!」



そんな銀さんの叫びも虚しく、アトラクションは動き始めた。





「…銀さん、これ逆じゃないですか?」

「なにが?!」

「私がこう…抱きつく側なんじゃ?」

「は?だからだろ?お前恥ずかしくて抱きついてなんかこれねーだろ?だから俺が抱きついてやってんだよ、俺の体温でせいぜい安心してええええええええええ!!!!!」

「うるさっ!!耳元で叫ばな」

「おおおおおおおおお!!!っざけんなっー!!脅かしてんじゃねーよ!!!やんのか!!あぁあん?!?!」

「いや、それロボットだから…生きてないから銀さん…」

「びびびびびってなんかねぇし?!ちょっと急に来たからあれだよ、あれ。挨拶だよ、挨拶。お、おつかれさんでーす、ごくろうさまでーすうううううううううう!!!!」

「……。」

「いやああああ!!!!!!」

「もう嫌だって叫んでんじゃん。」



多分銀さんの叫びは外まで響いていて、いい客引きになったんじゃないかと思う。本来私も本当に怖がりなのだが、銀さんの方が怖すぎて、全くというほど怖くないまま、アトラクションは終了した。





「はい、お水どーぞ。」

「おお…。」

「大丈夫ですか?」



私の問いには答えず、銀さんは項垂れながら、もう勘弁してと漏らした。



「せっかくの遊園地ですし、悔いのないように全部アトラクション体験したくって!」

「だからってお前ねぇ…。」

「えへへ、楽しかったですね!」

「…まぁ、そうだな。最後はあれだったけどな!」

「(あ、これ根に持つパターンだ。)また来ましょうね?」

「ん。」

「ん?」

「手。銀さんフラフラだから、引っ張っててくれねぇ?」

「…ふふっ、仕方ないですねぇ。じゃあ、最後はゆっくりお土産見て帰りましょう!」



そう言って私は、お登勢さんに、普段とは違ったデートができたことを感謝しながら、銀さんの大きな手を握りしめた。



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