×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

せっかく普段着とは違って少しお洒落もしてきたというのに、待ち合わせをしていた人物から用事が出来て遊べなくなったと、待ち合わせ場所に着いた途端、連絡が来た。どうしよう、せっかく外に出てきたのに、このままでは帰る気にはなれない。どこかぶらっと買い物して帰ろうかな?とベンチから腰を上げた時、上からなにしてんだ?と声を掛けられた。



「あ、土方さん!」

「体調でも悪いのか?」

「へ?あ、いえ、待ち合わせをしてたんですけど…。」



たまたま通りかかった着流し姿の土方さんは、どうやらベンチに座っている私を体調不良だと勘違いしたようで、優しく気にかけながらそっと私の隣に座った。



「待ち合わせ?…そんなめかしこんで、誰とだ?」

「神楽ちゃんとなんですけど、どうも万事屋の依頼が入ったそうで、またになりました。」



そういって私は笑って見せたが、ちゃんと笑えてたかは微妙だ。だって、あの土方さんが私の服装を見てめかしこんでるって言ってくれたのだ。似合ってる似合ってないはとにかく、いつもと違う変化に気づいてくれた、それだけで嬉しい。



「…どこに行く予定だったんだ?」

「電車に乗って隣町に。わたし、ここかぶき町しか知りませんから。」



神楽ちゃんがそんな私に、他の町を案内してあげるヨ!といってくれてからは、今日という日を楽しみにしていたのだが、こればかりは仕方がない。彼女や万事屋にとってその日の依頼はその日の晩御飯が左右される大事なものだ。



「…俺も非番なんだよ。」

「え?あ、そうですね、隊服じゃないですもんね。久々のお休みですか?」

「まぁな、書類も珍しく片付いてな、丸一日空いてんだよ。久々過ぎて何していーか分かりゃしねぇ。」

「あはは!そういう時ってなんだかもったいない気持ちになりますよね!」

「あぁ。…だから、…俺が連れてってやろうか?」



え?連れてって?一体なんのことだと土方さんを見て首を傾げると、土方さんは行くぞといって私の手を引き、ベンチから立ち上がらせ、そのまま歩き出した。



「まっ、待ってください!どちらへ?!」

「隣町だろ。確かにあそこは都会でショッピングビルも多い。お前が着てる洋服もいっぱいあんぞ。」

「本当ですか?!」



それは朗報だ。ここかぶき町では基本的に呉服屋は着物ばかりで、なかなか洋服が手に入らない。一応置いてあるところもあるが、あまり自分の好みではなかったので、そろそろ自分の好みにあった新しい服が欲しいと思っていたところだった。



「駅に向かうぞ。」

「い、いいんですか?土方さんお休みなのに…」

「休みだからだろーが。俺も暇なんだよ、付き合え。」



な?といって土方さんは珍しく悪戯っぽく笑った。それがどうにも艶っぽくて、ますます大人の男性を意識させられてしまう。あぁ、頬赤くないかな、大丈夫かな。繋がれた手も、緊張のあまり汗ばんでないかな。なんて考えながら、私は土方さんに手を引かれるまま駅へと向かった。





「わーっ!」

「なかなか大きいビルだろ。」

「はい!」



土方さんに連れてこられた町は確かにかぶき町に比べたら都会のようで、あちこちに大きなビルが建っている。おそらくデパートというやつだろう。



「んじゃ、行くか。どうせ何があるかも分かんねーんだ。下の階から順番にじっくり見ていけよ。」

「いいんですか?!でもそうすると時間もかかりますし…。」

「いいんだよ。別に急ぎの用はねーし。あ、でも俺を置いてくなよ?こんなとこ男一人置いてかれたら、どうしていーか分かんねぇ。」



確かに女性が圧倒的に多いこの場所で、はたして土方さんの興味が惹かれるお店はあるんだろうか?とにかくせっかく連れてきてもらったのだ、土方さんを退屈にはさせまいと意気込んでいると、土方さんがまた私の手を引いた。



「!」

「置いていかれねーよーに。」

「お、置いてなんか!」

「じゃあ名前が迷子にならねーようにだな。」

「それは否定できませんすいません、お願いします。」



そう言って私がおそるおそる手を握り返すと、土方さんも軽く握り返してくれた。なんてことだろう、一緒にお出かけ出来るだけで夢みたいなのに、手まで繋げるなんて。



「(デート…みたいっ…!)」



手を繋いだ分、近くなった距離にドキドキしながら、私は久しぶりのショッピングを楽しむことにした。





「たくさん買ったな。」

「はい!ここぞとばかりに!」

「あんま買う時って悩まねぇのか?」

「悩む?」

「いや、女って何決めるにも悩んで悩んで結局決まらずみてぇなイメージがあんだよ。」

「あー、私も悩む時は悩みますよ!でも今日は買う!って決めてたので、ほとんど即決しました!」

「ふぅん。」

「土方さんはお買い物で悩んだりしますか?」

「…かなりする。」

「え?!意外です!」

「よく言われる。けど、いいもん買いてーからな。失敗しねぇように悩みまくる。」



意外な土方さんの一面を知れたことが嬉しくて、私が笑うと、土方さんは何笑ってんだといって、私の頭を軽くコツンと叩いた。そのスキンシップが何とも恋人っぽくて、私の心臓はもう爆発寸前だった。



「これで大体は見て回れたな。」

「はい!たくさん歩きましたね!お付き合い頂いて、ありがとうございました!」

「おう。…んじゃ、次は俺に付き合え。」

「どこか土方さんも行きたい場所が?」

「夕飯、ちょっと早いが食べにいかねぇか?」

「も、もちろんです!!!!」

「元気な返事だな、腹減ってたのか?」

「ち、ちが!いや、…ちょ、ちょっとだけ…。」

「くくっ…そうか。なら行くぞ。」



てっきり買い物が終わったら、かぶき町に戻ってさようならかと思っていたのに、まさか夕飯までご一緒できるなんて。今日はなんて日だろう。神楽ちゃんと遊びに行けなかったのは残念だけど、これはこれでよかった。というか、むしろ神楽ちゃんありがとう!と思わずにはいられない。





「喫煙席でもいーか?」

「もちろんです!」



やってきたのはこじんまりとした居酒屋さんで、どうやらすべて個室タイプのお店のようだ。通された個室に腰掛け、店員さんからおしぼりをもらい、最初の一杯を頼み終えると、土方さんはメニューを渡してきて、好きなもん頼めといった。



「よくここには来るんですか?」

「いや、初めてだな。ただ、隊士から美味いって聞いてたんでな。一度来てみたかったんだよ。」



土方さんもグルメ情報とかに敏感なんだなぁと、また意外な一面を見れて内心喜んでいると、土方さんはぽつりと。お前とな。といった。



「…え、」



それってどういう意味ですか?と聞く前に、コンコンと扉を叩く音がし、店員さんが飲み物を運んできたため、話が中断されてしまった。



「乾杯するか。」

「は、はい!」



そして結局どういう意味かは聞けず、そのまま二人でメニューを見ながら注文を決め、そのあとはお酒に酔いながら、会話を楽しんだ。





「そろそろ帰るか。」

「もうですかー?」

「お前のその酔い方は危険だからな、電車に乗って帰らなきゃなんねーんだぞ。」

「まじでか。」

「タクシー拾ってもいいが…いや、タクシー拾うか。家まで送っててやれるしな。」

「優しいです!土方さん優しいです!!」

「うるせー酔っ払い、そこでじっとしとけ。」

「どこ行くんですかー?」

「厠だよ。」



そういって土方さんは私の髪をくしゃっと撫でて、個室を出て行った。なんだなんだ、もう帰るの?もう終わり?こんなにも楽しい時間がもう終わりだなんて、嫌だなぁと思いながら、コップに残っていたお酒を飲み干す。あぁ、確かに私は酔っているな。でも仕方がない。だってこんなに楽しくて幸せなんだから。



「よし、帰んぞ。」

「あ、おかえりなさいっ!」

「立てるか?」

「立てますよ!えっと…あれ?伝票が…。」

「んなもん、もう払い終わってんぞ。」

「えっ?!い、いつのまに?!」

「気にすんな。表にタクシーも呼んであるから、さっさと行くぞ。」



あまりにもスマートなエスコートに思わず口が開く。いや、どこまで男前なんですか土方さん。





「すいません…食事代もタクシー代も出してもらって…。」

「俺がいいって言ったんだ。気にすんな。」



タクシーが三日月堂に到着すると、土方さんは当たり前のようにお金を支払い、そして一緒にその場に降りた。てっきり私を送ったあと、そのままタクシーで屯所に戻ると思っていたので、その行動に私が驚くと、土方さんは別に歩いて帰れる距離だからなといった。



「今日はほんとうにありがとうございましたっ!」

「おう。」

「とっても、とっても楽しかったです!」



私がそう言うと土方さんは笑って、そりゃ良かったと言って私の頭を撫でた。手を繋いだり、一緒に買い物したり、ご飯食べたり、本当にデートみたいで、まさに夢のような時間だった。



「それじゃ…あの、おやすみなさい!」



だからなんとなくお別れが寂しいが、かといってこれ以上、土方さんを引き止めるわけにはいかない。私が名残惜しくも家に入ろうとすると、土方さんが名前と私を呼び止めた。



「はい?」

「またデート、しような。」

「へ?…えっ?!」

「じゃあな、おやすみ。」

「えっ?!えっ?!?!?!」



ちょっと待ってそれってどいういうこと?!デート、デートだったのこれ?!しかもまたって、またってなに?!と、完全にパニックになりながら、私は去っていく土方さんの背を見つめることしかできなかった。



これがデートなら、早く、早く次のデートの日がきますように。



戻る