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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

仕事の日はいつも同じような格好だ。清潔感を持つために白のブラウスに、よくしゃがんで膝立ちをすることが多くあるため、黒のスキニーパンツを履いている。もちろん足元はスニーカー。そして、仕事用のエプロンをつけて作業をする。



「いらっしゃいませー。」



そんな風に可愛げもなにもない格好だから、本当にまさかだった。自分が盗撮されていただなんて。





棚の前で商品の陳列をしていた時、後ろに人の気配を感じて振り向くと、若い男性が立っていた。いつものようにいらっしゃいませと声をかけて、棚を見るのに邪魔にならないようにその棚での作業は一旦中断し、他の場所に移った。そしてまた腰を屈めて平台の商品を入れ替えていると、また後ろに気配を感じた。あれ?と思ってゆっくりと振り向くと、さっきの青年がケータイを片手に立っていた。



「…なにかお探しですか?」

「…いえ、その棚を見たくて。」

「そうですか…。」



なんだまたわたしがタイミング悪く邪魔していたのかと思い、すいませんと頭を下げてそこでの作業も中断し、また他の棚へと移動し、次は自分の背より上の棚に本を並べるため背伸びをして腕を上げていると、また後ろに気配を感じた。



「…(いや、そんなことある?)」



なんだか棚というよりも、私を見ているのでは?と疑いたくなるほど、付いて回るお客様に不信感を抱き、作業はすべて止めてカウンターに戻ろうとしたとき、おいっ!と大きな叫び声が店内に響いた。



「えっ、ひ、土方さん?!」

「てめぇ、いまなにしてた?そのケータイ見せやがれ。」

「なっ、なんなんですか!誰なんですか!」

「警察だよ警察、いいから見せろ!」



その大きな声の主は、たまたまお店に立ち寄った土方さんだった。土方さんは入り口から一気にこっちまで駆けてきて、その男性のケータイを無理やり奪い取り、画面をなにやら操作してから、自分のケータイを取り出した。



「応援頼む、場所は三日月堂だ。盗撮容疑で犯人を現行犯逮捕した。」

「と、盗撮ぅ?!」

「なっ!ち、違います!僕は違うんです!」

「何がちげぇんだよ、ばっちり撮ってんじゃねーか。あぁん?」



そういって土方さんはその男性から奪い取ったケータイを私に渡し、確認しろと言ってきた。慌てて画面を見やると、確かに私がしゃがんだり屈んだり、腕を伸ばしてている私が写っていた。



「なっ!!」

「す、すいませんすいません!ついっ!!」



恐怖のあまり思わず片方の手で口を押さえ、撮った本人である男性を見やると、半泣き状態で違うんですと連呼した。違うと言われても、ばっちり撮れているこれが盗撮の証拠だ。



「とりあえず名前、お前は家に入ってろ。あとで呼ぶ。店はもう閉めろ。わかったな?」

「は、はい!」



あまり普段見ない瞳孔の開ききった、完全にキレている土方さんに怯えながら、私はいそいそと店を閉め、そして言われた通り家の中へと入った。





それからしばらく、大人しく家の中で待っていると、パトカーのサイレンの音が鳴り響き、店から遠ざかっていったのが聞こえた。ということは、あの人は連れて行かれたのだろうか?



「邪魔すんぞ。」

「土方さん!」

「…あいつは連れてった。被害届けもちろん書くだろ?」

「は、はい…。」



そういって土方さんは私の目の前にどんっと被害届けの書類を出し、早く書けと急かしてきた。その声も態度も何もかもが怖くて、つい萎縮してしまう。



「なにやってんだよ、早く書け。」

「わ、わかってます…すいません…。」



私がつい謝ると、土方さんは何に対しての謝罪だよといってきた。確かに、何にだろう?とりあえず土方さんのその怒っているような態度に、だろうか。



「…なんで、俺が怒ってんのか分かってんのか?」

「…と、盗撮されていたことにわたしが気付かなかった、からでしょうか…。」

「んなの気付かなくて当然だろう。無音カメラだったからな。」

「そ、そうなんですけど…。」



じゃあ何なんだろうと私が頭をフル回転にさせて悩んでいると、土方さんは急に私に手を伸ばしてきた。な、殴られる?!と思って目をぎゅっと瞑ると、そのまま抱きしめられた。



「へ?」

「こんな、薄いブラウスなんか着てるからだろーが。」

「ちょっ、やっ!」



抱きしめられたことに驚いたのもつかの間、土方さんは私の背中に指を這わせて、耳元でそんなことを言った。



「普通にしてたら見えねぇが、生地が張ると中のキャミソール、もしくは下着のラインが見えんだよ。」

「まっ…!」

「それと、もう少し丈の長いやつ着ろ。もうちょっとで腰が見えるとこだったぞ。」

「!」



土方さんの指が背中から腰に移動してそのままくびれを掴まれて思わず、身体が跳ねてしまった。



「それとも何か?見せてんのか?」

「ちがっ!!そんなこと!!」



そういって私が土方さんから離れようと身体を引くと、土方さんの鋭い目つきと目が合った。



「胸糞悪ぃんだよ、じろじろと変な野郎がらお前を見ておかずにしてるなんてな。」

「お、おかずって!」

「…これに懲りて頼むからもうちょっと気にしろ。胸糞悪ぃうえに、心臓にも悪ぃ。」

「はい…。」

「ま、大事にならなくてよかった。」



そういって土方さんは自分のおでこを私のおでこにこつんと引っ付けて、両手で私の頬を包んだ。



「心配させんな。」

「ごめんなさい…。」



そのため息からよほど土方さんが心配してくれていたことが伝わって、私が申し訳なさから耐え切れずに泣いてしまうと、土方さんはゆっくりまた私を抱きしめた。



「どんなことでも名前は俺が守るからな。」



その嬉しい言葉に私は頷いて、そのまま抱きしめられるまま土方さんに身体を預けた。



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