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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

女は面倒くせぇと思っていた。こういう仕事柄、恋人らしいことはきっとなに一つしてやれねぇし、期待に応えてはやれない。 そもそもそこまで何かしてやりてぇと思う女に出会ったことがない。

…いや、嘘だ。一度だけいた。けど、自分の意思とは別にそうしてやれねぇことに気付いて突き放して逃げたのは、もう何年前の話になるだろう。



「(…次はねぇって思ってたのにな。)」



不思議なもんだと思う。またこんな感情を抱くことができるなんて。比べるわけじゃないが、次こそは絶対に手放さないように、逃げないようにと、毎日あいつを想う自分がいる。



「いらっしゃいませ、土方さん!」

「どうだ、調子は。」

「今日は売り上げ好調です!!」



よほど嬉しいのかそう言ってガッツポーズをする名前に、俺がよかったなといって頭を撫でてやると、名前は嬉しそうに目を細めて笑った。



「…。」

「どうしました?」

「…いや、なんでもない。じゃあ、仕事戻るわ。」

「あ、はい!」

「夜また連絡する。」



そういって手を軽く振って店を出れば、後ろから名前がお仕事頑張ってくださいね!と見送ってくれた。手を大きく振るその姿につい笑みがこぼれる。



「よし、いいぞ、車出せ。」

「…副長って、意外に尽くすタイプなんですね。」

「あぁ?」

「毎日毎日、見回りの時に名前さんに会いに行くなんて鬼の副長からは想像できませんよ。」

「…見回りのついでだ。んだよ、文句あんのか?」

「いやいやないですよ、文句なんて。だってそもそもトップの局長がああなんですから。」

「近藤さんと一緒にすんじゃねーよ。」



俺は公私混同はしねぇといえば、山崎が明らかに不服そうな顔をしたので、そのまま殴っておいた。見回りついでだっつってんだろが。





「…山崎は?」

「今日は監察方の仕事でさァ。」

「…で、お前と見回りか。」



確か今日の勤務表では昼からの見回りは山崎とコンビを組むことになっていたはずだが、実際パトカーの前で珍しく待っていたのは総悟で、そういや近藤さんが少し山崎を借りると言っていたことを思い出した。



「サボんねぇでくだせぇよ、土方さん。」

「そりゃお前だろうがっ!!ったく、珍しいじゃねーか、お前が時間通りに見回りに行くなんざ。いつもはどっかで寝てんだろうが。」

「いやー、土方さんと見回りだって聞いたらいてもたってもいられなくて。」

「…どういうことだよ。」

「名前のとこ行くんですよねィ?」



俺も名前のとこに行く用事があるんでね、ちょうどよかったでさァといって、総悟が運転席に乗り込んだ。…待て、なんで知ってる。



「おまっ!!」

「シートベルト締めてくだせぇよ。」

「なんで知ってんだよ!!」

「隊のみんな知ってやすぜ?あの副長がって面白がってまさァ。」



面白がってる?!おいそりゃどういうことだ、ことによっちゃ全員切腹命じんぞといえば、総悟はそれなら山崎ひとりに命じてせぇよといった。なるほど、元凶はあいつか覚えておけよ。



「……。」

「で?寄るんですよねィ?」

「…見回りついでだからな。」

「へぇへぇ、じゃあ俺も見回りについでに甘味屋寄ってっていいですかィ?もちろん、土方さんの奢りで。」

「……今日だけだ。」



くそ、なんでよりによってこいつにバレんだよ。と思いながら苛立ちを抑えるためにタバコを咥える。あー、早く山崎の野郎殴りてぇ。



「…つーか、行かねぇっていう選択肢はないんですかィ?」

「…ねぇな。」

「きっも。」

「よーし刀を抜けー。」



会える距離にいるのに会いに行かねぇなんて、そんな選択肢あってたまるか。





「あれ、今日は総悟も一緒なんですね!」

「名前、土方の野郎はいつだってとにかくお前に逢いたくて仕方がねぇらしいでさァ、仲良く爆発しやがれ。」

「総悟ォォォ?!てめぇなにいってんだ!」

「そ、それは…その…う、嬉しいね、うん。」

「名前…っ!」

「死んでくれねーかなーまじで爆発しろよーこのバカップルー。」



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