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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

起床後、いつも朝稽古に向かう足をこの日は局長室へと向けた。襖を開けると、近藤さんはちょうど隊服に着替え終えたところだった。



「お?早いなー総悟!おはよう!」

「近藤さん、おはようございやす。いま、少し大丈夫で?」

「なんだなんだ、総悟が俺に改まってなんか珍しいなー!」



そういって近藤さんは豪快に笑って、座布団を二枚用意した。そして近藤さんが座ってから俺も用意された座布団に座った。



「で、どうした?」

「名前と付き合うことになりやした。」

「そうかそうか!名前ちゃんと……ってえええぇえええ?!」 

「朝からうるせぇですぜ、近藤さん。夜勤隊の奴らが起きちまう。」

「ごめんごめん!いや、え、でも!ほ、本当なのか総悟?!」

「俺ァ、こんなこと冗談でいいやせんぜ。」



昨晩、名前とお互い気持ちが一緒だと分かって、やっと付き合うことになった。これまで散々、鈍いあいつにこの俺が振り回されてきたが、やっとこれで俺があいつを好きなようにできると思ったら、つい顔も緩んでしまう。



「…そうか、嬉しそうだな総悟。」

「誰よりもまず、近藤さんに言いたかったんでさァ。」

「うっ…そうかそうかっ…ついに総悟も一人前の男になっ…」

「泣かないでくだせェよ、近藤さん。その鳴き声でゴリラが寄ってきたらたまんねェや。」



ということなんで、近々名前を屯所に招きたいと言えば、近藤さんは二つ返事で承諾してくれた。それから結婚はいつするのか、結婚後は名前が屯所に住むのかどうなのかとか、気の早い質問を矢継ぎ早にする近藤さんを無視して、俺は次へと向かった。



「土方さん、いまいいですかィ?」

「朝稽古に遅れてきたやつが何呑気に言ってんだよ、早くしねぇと切腹させんぞおい。」 

「近藤さんと話してたんでさァ。俺と名前の結婚はいつするかどうかってね。」

「んなのどうでもいいんだよ、さっさと稽古に…って…おい。いま、お前…なんつった?」

「結婚でさァ。」

「…誰と、誰が。」

「その耳は飾りもんですかィ?それなら俺がいっそのことバッサリ斬って」

「ハァァァァァ?!?!」



土方の野郎の大きい叫び声のせいで道場が一斉に静かになり、道場にいた全員が何事かとこっちを見た。大袈裟にするつもりはなかったが、こうなったらついででィ。



「おめぇら、俺ァ名前と結婚するんで、ご祝儀よろしく頼みますぜィ。」

「「マジっすか!!!!」」



ついに隊長が結婚?!局長や副長よりも先に結婚だってよ!相手はどんな女なんだ?!なんてあっちこっちから聞こえてきたが、いちいち答えるつもりはない。じゃあ、次に報告する人がまだいるんでといって、俺は稽古をせずに颯爽と道場をあとにした。



「ふ、副長?だ、大丈夫ですか?」

「山崎、てめぇはこのこと知ってたのかよ。」

「ぜ、全然!!いま知りましたよ!沖田隊長が名前ちゃんのこと好きなのは知ってましたけど、まさか名前ちゃんがそれに応えるとは…」

「あいつ名前のこと好きだったのか?!」

「は?いや、結構わかりやすくアプローチして…えっ?!副長まじで知らなかったんですか?!」

「おいなんだよその目は。」

「いや、副長って鈍い…」

「よーし山崎、今日は俺が直々に稽古ついてやる、さっさと構えろ。」

「いやいやいや!大丈夫っス!てか瞳孔!瞳孔あいてますって副長!!」





騒がしい屯所を出て向かうは、旦那のところだ。あそこに寄るなら何か手土産持っていった方がいいと思い、いつも行きつけの団子屋に寄ることにした。



「おいばーさん、一つ差し入れ用に包んでくれィ。」

「いいよー、ちょいっと待ってな。にしても今日は来るのが早いねー。」

「寄るところがあるんでね。…ところでばーさん、俺ァ、近々結婚しまさァ。」

「な、なんだって!?なんだいなんだい!唐突じゃないか!あれ、もしかして、あの子かい?よく一緒に来た書店の…」

「そーでさァ。」

「まぁ!!それはめでたいわねぇ!!ならこれはおまけするわ!代金はいらないからね!」

「悪ィなー、ばーさん。」

「今度また二人で来なよ!その時はまた別でお祝いするからさぁ!」

「そりゃぁ楽しみだねィ。」



んじゃその時はよろしく頼みまさァといって、俺は包んでくれた差し入れを手にして、万事屋へと向かった。





「旦那ー、旦那起きてやすかー?」

「おいおいお前今何時だと思ってんの?まだ昼前だよ?銀さん昼過ぎからじゃねーと活動しねーの、活動できねーの、わかる?わかったらとっとと出直して、」

「差し入れにうまい団子持ってきやしたぜ。」

「入りたまえ総一郎くん。」

「総悟でさァ。」



何度目かの呼び掛けてようやく出てきた旦那はまだ寝間着姿で、酒の匂いがした。二日酔いですかィ?と聞けば、そうだからあんま叫ぶなよと返された。



「んで、今日はどーしたっていうんだよ。」

「こいつが食べ物くれるとか怪しすぎるアル!絶対に裏がアルネ!」

「そういいながら食ってるバカはどこのどいつでィ。」

「何か僕たちに依頼ですか?」

「いや、報告にきたんでさァ。」

「報告?んだよ報告って、俺たちに関係」

「名前と結婚しまさァ。」

「……けっ?」

「「こん?」」

「そう、結婚、でさァ。」

「「「ええええええぇぇええ?!?!」」」



二日酔いだから叫ぶなと言っておきながら自分で叫んで、頭抱えてる旦那を横目に、俺は出されたお茶を飲んで、差し入れの団子を一つ頬張った。



「つーわけなんでね、ご祝儀の用意頼みやすぜ。」

「あれ、まだ俺酔ってんのかな?酔ってんだよねこれ?夢だよね?」

「結婚ってお前何かわかってるアルか?相手がいて成り立つものネ、相手もいないお前に結婚なんてできるわけないアル!」

「だから相手は名前だっつてんだろィ。」

「お、沖田さんそれっていつものタチの悪い冗談とかですよね?僕らの反応みて楽しんでるんですよね?!」

「反応みて楽しんでるのは否定しねーが、本当のことでさァ。」



そういえば万事屋の3人は全く同じ間抜けな顔をして、一瞬黙ったかと思ったら、また大きな声でありえねぇや嘘だとか世も末だとか好き勝手なこと叫び始めた。おい、いま名前が可哀想っていったやつ誰でィ。



「ま、そういうことなんで、邪魔しやしたー。」



信じようが信じなかろうが勝手だが、今後一切名前に変なちょっかいかけるのはだけはやめて下せェよと言い残して俺は万事屋をあとにした。





これで大体の報告は終わったか?と思いながら屯所に戻る道を歩いていると、前から走ってくる女が見えた。



「…名前じゃねーか。」

「総悟ぉおおおお?!?!?!」

「なに叫びながら走ってんでィ、気狂ったか?」

「違うわ!!」



ゼェゼェと肩を揺らしながら俺の前で止まった名前の額には薄っすら汗も見える。そんなに慌てて急用か?と聞けば、名前は顔を真っ赤にして、なに言いふらしてるの!と怒鳴った。



「言いふらす?」

「さっき近藤さんと土方さんがお店に来て、おめでとうって!まぁ、総悟にとったら親みたいな二人だから、別にそれは構わなかったんだけど、なんか話を聞くと思い違いしてるの!!」

「思違いってなんでィ?」

「け…けけけ結婚!結婚おめでとうって!言われたんだけどぉお?!?!」



どういうことなの!と問い詰める名前の顔が真っ赤すぎて、俺が笑いを堪えきれず吹き出すと、名前はさらに顔を真っ赤にした。



「近藤さんにはちゃんと付き合うことになったって言ったぜ。けど、近藤さんが先走って結婚の話をしてきたんでね、どうせついでだと思って、そのあとは結婚報告にしときやした。」

「ついで?!ついでってなにかな?!わたし聞いてないよ!?!?」



だってどうせすぐまた結婚報告をしなきゃならねぇなら、まとめて報告した方が手間じゃねーだろといえば、名前は目を見開いて黙りこくってしまった。



「け、結婚って…そんな話…」

「あ?俺ァ、確かに昨日言いやしたぜ。一生、名前を幸せにする、離すつもりはねぇってな。」

「そ、!そうだけど!」

「したら名前はなんていったんでさァ。わたしもつったろ。」

「…うん。いや、でもそれがまさかプロポーズだなんて…」

「ならそれがプロポーズでさァ。で、返事は?まさか昨日と違うとかねぇよなー?」

「まさか!それは…ない…。…嬉しいよ、とっても。」

「じゃあ問題ねぇ。」



ほらぐだくだ言わずに行くぜといって、名前の手を取って歩き出すと、すぐに名前は手を握り返してきた。そして横を見やると、嬉しそうに笑う名前がいて、俺もつられるように笑った。



「ちなみにさっきよく行く団子屋さんの前通った時も、結婚おめでとうって言われたよ。」

「おー。その団子持って万事屋の旦那にも報告してきやしたぜ。」

「銀さんにも?!てか今日、1日なにしてるの?!仕事は?!」

「名前、ついでにこのまま飯食いに行くぜ。」

「いやだから仕事は?!」



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