ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ! |
付き合う前からそうだった。顔を合わせれば必ず取っ組み合いの喧嘩だったり、くだらない言い合いだったり、とにかく神楽ちゃんとは気が合わないといいながら、気が合ってるとしかいいようがないほど、お互いが突っかかりあっている。 「いつもこうやって見守る私たちはなんなんですかね。」 「俺は上司でお前は彼女だな。」 「保護者の間違いではなくてですか。」 総悟と付き合おうが付き合う前だろうが、この二人の関係性になにか疑いを持ったことはない。だからゆっくり団子屋さんの軒先でお茶をすすりながら、いつ終わるか分からないじゃれあいを見ている。そして毎度のごとく、総悟を探しにきた土方さんに会い、二人で肩を並べて一緒に終わりが来るのを待つのだ。 「嫌じゃねーのか?」 「喧嘩は嫌いですよ、怪我もして欲しくないし。でも、あれって二人にとってもう恒例行事のようなもので、」 「そうじゃなくて、総悟が他の女と、喧嘩とはいえあれじゃねーか。」 「あれって?」 「いや、あれはあれだろ・・・。」 「?」 体、触れてんだろ。と、土方さんが小さく呟いて私はあぁと納得をした。でも、相手は神楽ちゃんですよ?といえば、お前が大丈夫ならそれでいいがといって、土方さんは胸ポケットたからタバコを取り出した。土方さんの言おうとしていることはわかるが、何度も言うように相手は神楽ちゃんなのだ。 「もし、万が一少しでも疑いがあったら、きっと私は総悟と付き合っていませんよ。」 「ふぅん。」 「総悟はまっすぐですから。私を選んでくれたってことは、そういうことです。それを疑うのって、失礼だと思うんです。」 「そう頭では理解してても、嫌だって思うことはねーのかよ。」 「なんだか嫌だって思って欲しいみたいな言い方ですね。」 私がそういって笑うと、土方さんは俺がっていうより・・・といって言葉を濁した。そんな土方さんを不思議に思い顔を見やると、ちょうどタバコの灰が落ちそうになっているのに気がついた。 「あ、落ちそうですよタバコの灰。」 「あ?うおぉっ!?」 忠告が一足遅かったせいで、タバコの灰がボトッと土方さんのズボンに落ちた。熱ちっ!といって土方さんが立ち上がり灰を払い落とすその格好が、妙に間抜けで、私は大丈夫ですか?と声をかけながら、笑いを堪えた。 「おまっ、笑ってんな!」 「すいませんっ・・・・ちょっと、なんだか・・・ツボってっ・・・」 笑いが堪えきれなくなってつい声を出して笑うと、土方さんはバツの悪そうに笑うな!といって、私の頭に手をおいた。その瞬間、シュンっと風を切る音がして、何かが私と土方さんの間を抜けていった。おそるおそる、後ろを向くと、思いっきり柱に刀が刺さっていた。 「「・・・総悟ォォォォオオオォォォ!?」」 「悪ぃ、悪ぃ、手が滑りやした。」 「どう滑ったらこうなんだよ!!危ねぇだろうが!!」 「そそそそうだよ!なにしてんのかな総悟は!」 私がそう抗議すると、総悟は不機嫌そうにこちらに寄ってきて、思いっきりほっぺをつねってきた。痛い痛い痛い、なになんで急に!? 「いひゃい!!」 「てめぇ誰の女なんでィ。」 「ひゃい!?」 「土方さんも人の女に気安く触れねぇでくれやすか。汚れるんで。」 「汚くねぇよ!!」 触れるっていったって、そんな頭に手をおいただけで刀が飛んでくるなんて、冗談じゃない!私は思いっきり、総悟の手を引き離し、つねられた頬を撫でながら、バカっ!と怒鳴った。 「…バカとはなんでィ。」 「危ないことはしちゃだめでしょ!他のお客さんに当たってたらどうするの!」 「大丈夫でさァ、絶対コントロールに自信があるんでね。的が土方だと特に。」 「おいお前ふざけんなよ。勝手に俺を的にすんじゃねーよ!!」 「そういうことじゃないでしょ!!勝手だよ総悟!」 勝手?何が勝手なんでィ?といって、総悟は眉をしかめた。私は深呼吸をひとつして、そして思いっきり叫んだ。 「じゃあ総悟は誰の男なの!?!?」 「は?」 「わたしの男でしょう!?それなのに、いつもいつも飽きもせず神楽ちゃんとじゃれあって、それこそ触れてんじゃん!思いっきり!なのに、それを棚に上げてわたしに怒ったり、土方さんに嫉妬するのは勝手です!!!」 そう私が叫び終わると、総悟はポカーンと口をあけて、私の顔をまじまじと見た。隣では土方さんが肩を揺らして笑っているのが視界に入った。 「おまえっ…気にしてんじゃねーか思いっきり…っ…」 「わ、笑わないでください土方さん!それに誤解しないでください!わたしは、わたしと土方さんが何もないってわかってるくせに、嫉妬するのは勝手だといいたいんです!そんなことするなら、わたしだって総悟と神楽ちゃんに嫉妬するからね!!」 そういって私が総悟に言いよると、総悟はなぜか嬉しそうに笑い私をそのまま抱きしめた。 「は!?なに!なんで抱きしめるの!怒ってるんだよわたしは!」 「勝手で結構。嫉妬してくだせェよ。」 「なっ!」 「俺ァ、無理ですぜ。誰であろうと、何もないって分かっていても、名前になら嫉妬しまさァ。」 「なにそれ!」 「それだけ好きってことでさァ。それに、さっきのわたしの男でしょってやつ。ありゃァ、たまんねぇや。」 「たまんねぇやって…」 「俺ァ、嫉妬束縛大歓迎でさァ。」 だから名前も俺に負けねぇくらい嫉妬して束縛してくだせぇといって、総悟は抱きしめる力を強めた。私はそんな総悟に応えるように、背中に手を回した。 「普通男の人って嫉妬嫌がるもんじゃないの…?」 「知らねぇ。俺は俺でさァ。」 戻る |