ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ! |
最近名前の様子がおかしい。呑みに誘っても何かしら理由をつけて断られるし、店に行っても忙しいといって目も合わしてくれない。明らかに避けられている。 「意味わかんねー。」 急にだ、急に。それまで何もなかったのに。何も?いや、何もってことはない。どっちかっていうといい雰囲気だった。もしかして俺と同じ気持ちでいるんじゃないかって、正直自惚れるほど、名前に向けられる笑顔は優しくて、銀さんと呼ぶ声は甘くて、 「銀さん、妄想してないで仕事してください。」 「ぱっつぁん、まじでどうしよう。」 「知りませんよ、どうせ銀さんのことですから、無意識に失礼なことしちゃったんじゃないですかー?謝れば済む話ですよきっと。」 ふざけんなよ、なんで身に覚えのないことに謝らなきゃならねーんだよ。男はそんな簡単に負けを認めて頭を下げてちゃいけねーんだよ。いつだって男は威厳を持ってだな…。 「すいませんでしたァァァ!!!!」 「な、!ちょ、銀さんうるさい!!急にお店に来るなりなんですか!!」 新八に言われた通り、俺は名前に会うため店に向かい、そして誠心誠意込めて謝ってみたが、名前の態度は相変わらず冷たかった。 「なんなの?もうなんなのお前、俺が何したっていうんだよ!!イジメだぞこれ!!イジメ!!イジメ反対!!」 「なんの話?!落ち着いてくださいっ!!」 これが落ち着いていられるか!と思いつつも、名前が、本当にどうしたんですか?といって久々に俺の腕に触れたせいで、なんとか冷静さを取り戻した。しかし、すぐに名前はハッとした顔で腕から手を離し、また目をそらした。 「…あのさ、なんでお前最近そんなんなの?」 「そんなんって…。」 「目も合わせねぇし、冷てぇし、避けてんだろ、俺のこと。」 「…別に。」 「別にじゃねーよ分かってんだよこっちは!あからさま過ぎて傷付いてんだよっ!」 「…傷付くって…。」 じゃあ彼女に慰めてもらえばいいじゃないですか、といって名前は俯いた。は?彼女?なんの話? 「あの〜もしもし?名前ちゃん何言ってるの?」 「…彼女いたことどうして言ってくれなかったんですか?わ、わたしたちの仲じゃないですか!銀さんなんかを彼氏にしてくれる人がいるなんて驚きですよ!紹介くらい…」 「いやいやまて。お前まじで、何言ってんの?俺フリーだよ?」 「スタイルのいい女性で、長い黒髪がとっても綺麗なひと。わかってるんですよこっちは!」 「長い黒髪?」 どうにも名前は先日、町で俺とその見覚えのない女性と歩いてるのを見たという。しかし、名前以外で関わりのある女なんか、どいつもこいつも名前も知っている奴らだ。 「それ、銀さんじゃなくね?」 「え、なんなんですか?わたしに紹介したくない理由でもあるんですか?ふざけてんですか?」 「なんで俺怒られてんの?ふざけてんのどっちよ?」 おいおいまじでわかんねーよ。名前の勘違いだろと思いながら詳しく話を聞けば、やっとひとつ可能性が出てきた。 「…黒髪の長髪っておまえ…それ、ヅラだわ…」 「ヅラ?!あんな綺麗な髪がヅラ?!」 「いやヅラでもヅラ違いな。」 「と、とにかく!!彼女さんがいるのにこんなところで寄り道してていいんですか?わたしだって女ですよ?勘違いされたらどうするんですか!」 名前は全く聞く耳を持たず、さっきからぎゃーぎゃーと何か言っているが、こっちこそんなもん聞く気はない。 「名前ちゃんさ、それって嫉妬?」 「は?いやいや…は?なにそれ、嫉妬ってなんですか?なんでわたしが嫉妬なんか!それも銀さんに!」 「銀さんだからだろー?あのな、そいつは桂だよ。かーつーら!わかる?指名手配犯の桂!」 「か、桂さん…?」 「そ。あんときあいつ変装してたんだよ。疑うなら今度会った時にでも聞いてみろよ。結構、頻度高くあの格好してんぞ。」 「そ、そうなんですか…?」 「で?それを見て名前は、俺に彼女がいると勘違いして、わざわざ避けてわけ?」 名前は顔を真っ赤にして、別に!と大きな声を出して、カウンターに逃げていった。なんなのこの子。それもう、告ってるようなもんじゃないの? 「疑いも晴れたし?もう避けんなよ。まじで焦るから。」 「……。」 「ていうか避けられないようにしちまえばいっか。」 逃げられるくらいなら、早々に捕まえてしまえばいいと、俺はカウンターにいる名前に近寄り、そして腕を引いて抱き寄せた。 「はい、確保ー。」 そして、名前以外彼女にする気ないから、安心しろよといえば、名前は顔を真っ赤にして、俺の胸に顔を埋めた。小さな声で銀さんのバカなんて聞こえたが、バカはどっちだよと、俺は笑わずにいられなかった。 戻る |