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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

調子に乗りすぎたと反省しながら、パンパンに膨れた袋を見つめる。今朝、スーパーの安売り広告を見て、仕事終わり急いでスーパーに駆けつけた。思った以上に特価品が残っていて、私はやった!と喜び、ここぞとばかりにカゴに特価品を入れ、会計を済ました。それから袋に詰めるまではよかったのだが、そのあと大問題に気付いた。



「どう考えても自転車のカゴに乗らないんだよなー。」



仕方がない。自転車は押して帰るとして、袋はひとつはカゴに、もうふたつは持ち手のところに引っ掛けることにしよう。私は結構な重さの荷物を自転車に乗せ、バランスをとりながら自転車を前へ進めた。





案外、バランス感覚を掴んでしまえば、楽に自転車が押せるようになり、少し余裕が出てきたかな?ってところで、まさかの片方のビニール袋の持ち手が破けそうになっているのに気が付いた。



「いやいやこれはまずい」



慌てて自転車を止め、破れそうな袋をどうにかしようとした瞬間、一足早くビニールが破れてしまい、悲惨にも荷物をその場にばら蒔けてしまった。



「……。」



血の気が引くとはまさにこのことで、私は絶句し、あまりの出来事に動けずにいると、後ろから大丈夫ですかァァァ?!という、大きな声が聞こえてきた。



「こ、こりゃ大変だ!お嬢さん、ちょっとこれ持っていてください!」

「…え?」



突然現れた男性は私に荷物を預け、私の代わりに散らかったものを素早く拾い出した。



「あ、いや!あの!すいません!!拾ってもらって!私も拾います!!」



そういって膝をつこうとすると、その男性はダメです!といって私が屈むのを阻止した。



「膝をつくと服が汚れてしまいますから、僕が拾います。」

「い、いえ!わたしが落としたのでわたしが!それにあなたこそ汚れて!」

「僕はいいんです!男ですから!」



そういってニカッと笑う男性に思わずドキッとしてしまい、慌てて立ち上がると、その男性はすぐに終えますからといって、残りの荷物を拾い上げてくれた。



「すいません…本当に助かりました…」

「いいえ、これで全部ですかね?」

「ええ、おそらく。本当にありがとうございました!」

「困ってる女性がいたら助けるのが男です。」



そんな男前なこと言う人、本当にいるんだと驚いていると、その男性はこちらこそ荷物を持たせてしまいすいませんといって、私に預けていた荷物を受け取った。



「あ、いえ…あの…よかったらお礼させてください。」

「え?いやいやいや!そんな!これくらいいたって普通のことですから!」

「そんなこと言わずに!あ、でも、お急ぎですよね?でしたら後日お礼させていただくため、お名前とよかったら連絡先を…」

「いやいやいやいや!そんな!…え?そうですか?いやー、参ったなぁ!本当に気になさらないでいいんですか、近藤勲といいます!」

「…近藤さん。」



いやいやと否定する割にはすごい流れよく名乗った近藤さん。そして同じ調子でいやいやと否定しつつも名刺を渡してくれた。ここによかったらといって、電話番号も書いてくれた。私は苦笑しながら受け取った名刺を見て、思わず固まる。…こ、これって、



「…真選組、局長?」

「いやいやいや!そんな大した肩書きじゃないんですけどね?これでもその一応、大将やってまして!そんな別にすごいわけでもないんですけどね!あははは!!」



真選組って、あの土方さんと同じ…?同じどころか、副長の土方さんよりも偉い立場である局長がこの人、近藤さん…?



「おおおおお恐れ入ります!!!」

「ええぇェェェ?!急にどうしました?!」



お偉い方とは知らず、そんな方の服を汚させてしまったことを改めて詫びると、近藤さんは笑って本当に気にしないでくださいといった。話に聞く通り、とても優しい方のようだ。



「その、あの…わたし、三日月堂の名前といいます!土方さんにはたいへんよくしてもらっていまして!」

「へ?三日月堂?…あ!三日月堂!深月のおやっさんのとこの!そうか!トシがいってたお嬢さんがあなただったんですね!」



それからお互い改めて自己紹介をし合い、近藤さんはよかったら家まで送りますよといって、重たい荷物を2つ、持ってくれた。



「トシとはいつもどんな話を?」

「土方さんはいつも優しく厳しくて!時々、小言もいうので、お母さんって感じで…」

「そうかそうかー、トシがなぁ!」

「それからよく近藤さんの話も!」



近藤さんは局長さんという偉い立場の人でありながら、いい意味であまりそんな感じがせず、話しやすく親しみやすい人で、私は近藤さんとのおしゃべりを家に着くまでの間、存分に楽しんだ。



「それじゃ荷物はこれで全部っと。本当にお礼はいいからね!」

「ありがとうございます!ですが、こちらも何かお礼をしないと気が済みませんので…もし欲しい本があればいってください!もちろん無料で何でもご用意しますから!」

「あははは!頼もしい店主だ!じゃあその時は是非。」

「はいっ!」



私の返事に近藤さんは頷くと、そのまま来た道を戻っていった。どこか行く用事があったはずなのに、送ってくれるなんて。近藤さんは本当に男前だなと思わずにはいられなかった。加えてあの人柄の良さだ。きっと、皆に好かれる上司なんだろうなと思いながら、私は近藤さんの背中を見送った。



「素敵なひと…。」



まさかそんな人が変態ストーカーであると知るのは、もう少し先の話。



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