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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

夏祭りに総悟といけないことくらい分かっていた。だから改めて夏祭りは真選組総出で警備に当たるから行けないと言われても、うんわかったとしか言いようがなかった。



「(それなのにあの拗ねよう。わたしにどうしろと…)」



私が分かったといったとき、総悟は少し眉をしかめて、怒ったような素振りを見せ、そのまま素っ気なく店を出て行った。それから2日、毎日顔を出していたはずなの総悟が店に来ない。よくある拗ねているパターンだ。



「それで喧嘩ァ?ついに名前ちゃんらも破局か。」

「ついにって、なにその待ってました感!!別れませんよ!こんな、よく分からないことが理由で!」

「いやいやよく分からねぇこともないよ?あのね、名前ちゃん。物分りのいい女がいい女とは限らねーんだぞ。」

「…銀さんはなんで総悟が怒っているかわかるんですか?」

「んー、なんとなくな。名前ちゃんはさ、祭り行きたくなかったの?」

「…そりゃあ行きたかったですよ。花火も一緒に見たかったですけど!でも、真選組が警備に当たるのは毎年のことで、重要なお仕事です。それを分かっているから…」

「それ伝えた?」

「…それって?」

「本当は行きたいけど、本当は寂しいって。そう素直に伝えりゃよかったんじゃねーの。」



わざわざ寂しいって相手に伝える?それって重荷になるんじゃ…と私が口ごもると、銀さんは笑って、寂しいのは女だけだと思ってんじゃねーぞといった。



「(…なるほど。そりゃあ総悟も拗ねるわけですね。)」



私はこの日、店を閉めてからあることを思いつき、それを実行するためにさっそく買い出しに出かけた。祭りは、明日だ。





翌日、朝早く起きて、総悟にメールをいれておいた。



『お仕事頑張ってね。終わったら何時でもいいから、家に来てください。ずっと待ってます。』



まだ総悟が怒っていたらと考えると不安になったが、だからといってうじうじしているつもりはない。来ることを願って、私は仕事が始まるギリギリまで、今晩の用意を進めた。





「疲れたぁ…」



お店を閉めて居間でひと段落する。お祭り効果もあるのか、今日はお客さんが多く、売り上げもよかった。これだけ客足が増えるならもっと、子供向けの本とか、少し高価な珍しい本なんかも仕入れておけばよかったと思いながら、来年は失敗しないようにシステム手帳にメモを残そうとひらくと、すでに今日の日付のところに印をつけていた。本当は、少し期待をしていた。もしかしたら、なんて思ってつけた印だ。素直じゃない自分に苦笑しながら、自分の失態を挽回するため、私は腰を上げた。



「…さてと、もう一踏ん張り!」



手帳を閉じて台所へと向かう。花火が上がるのはまだ数時間後。総悟の仕事が終わるのはさらにそのまた数時間後だろう。それまでに準備を終わらせねば。





「あ、おかえりなさーい!」

「…てっきり寝てるかと思いやした。」



全ての準備を終え、居間でのんびり本を読んでいると、合鍵を使って入ってきた総悟がこちらをみて驚いた表情をした。そんなに驚くことかと思って時計に目をやると、もうとっくに日付は変わっていた。



「遅くまでおつかれさま。」

「おー。」

「よいしょっと!んじゃ、やりますか!」

「よいしょっておめぇババァかよ。つーか、疲れてる恋人を呼びつけてさっそくヤるって、盛りすぎだろィ。」

「誰がババァだ。ていうか勝手に勘違いして勝手にドン引きしないでくれる?!そういうことじゃないから!」



じゃあなんでィという総悟の手を無理やり引っ張って、縁側のほうへ連れて行き、私は襖を開けた。



「じゃーんっ!!」

「……。」

「え゛っ?!まさかの無反応!?!?」



襖を開けたその先はこの家の庭になっており、そこには私が昨日の夜からせっせと用意した、あえて名付けるならお家で縁日ごっこ!が広がっている。縁日っぽい雰囲気を演出するため、物干し竿には提灯を、ビニールプールには色とりどりのヨーヨーを浮かべ、そして木々にはキャラクターものからおきまりのお面などを飾り付けた。そして縁側のそばには、たらいに水を張り、総悟の好きなお酒を冷やしておいてある。我ながら渾身の出来だと満足していたのだが、



「こりゃ一体…」

「縁日…っぽいものです…。」

「全部名前が?」

「うん。あ、屋台はないけどね!屋台食は用意できてるよ!焼きそばに、たこ焼きに、フランクフルトに、焼き鳥!あとはねー、」



想像してた反応と違ってあまりにも総悟が大人しい反応だったため、これはもしや失敗したかと不安になり、慌てて他にも縁日っぽいことあるよアピールをしようと早口で説明していると、突然、総悟に口を塞がれてしまった。



「んっ…」



すぐには離してくれず、そろそろわたしの脳に酸素が足りなくなってきた頃、ようやく総悟の唇が離れた。



「ごめんね、総悟…。」

「なにがでィ。」

「お祭り。本当はね、総悟と行きたかったよ。花火も二人でね、欲を言うなら、浴衣とか着て見たかったよ。でも、無理だってわかってるのにそれを言ったら、わがままな女だって思われるかと思ったの。」

「んなこと思いやせん。」

「総悟もお祭りわたしと行きたかったんだよね。」

「たりめーだろィ。なのにおめぇが別にわたしは平気みてぇな言い方しやがるから、腹立ったんでさァ。」

「うん、ごめんなさい。」

「でも…まさかこんなことしてくれるなんて、驚きやした。」



驚かせたかったんだと言えば、総悟は笑って、庭のほうへ降りていった。随分、手が込んでんじゃねーかと、お褒めの言葉をもらって私が喜んでいると、総悟は木々に飾ってるひょっとこのお面を手に取り、頭につけた。



「名前、今から祭りでさァ。まずは焼きそば食わねぇと始まんねーや。」

「あはは!うん!すぐ用意するね!」



私は急いで台所に戻り、用意してあった屋台食を、本物の屋台で出されるものと同じ発泡スチロールの皿に盛り、庭へと戻った。総悟はそこまで凝るなんてすげぇやと、また褒めてくれた。それからしばらく、二人で冷やしておいたお酒を呑みながら、夜空の下、ちょっとした縁日気分を味わった。総悟は始終笑顔で、頑張って用意したかいがあったなと、私は嬉しくなった。



「そろそろお腹も満たされたし、花火しない?」

「花火まで用意してんのか。」

「もちろん!まぁ夜も遅いし、ご近所迷惑にならないように、今日はこれだけね。」

「えー、そこはロケット花火だろィ。」

「また今度、花火していいとこでね!線香花火だって楽しいよ?ほら、持って!」



無理やり総悟に線香花火を持たせて、先に火をつけていた自分の火を総悟のほうへと移す。



「線香花火って何が楽しいんだろうって正直今まで思ってたんだけど、こうして好きな人と、楽しかった時間の余韻に浸りながらすると、なんか幸せな気持ちになるね。」

「名前はロマンチストだねェ。」

「そうかなぁ?」



パチパチと小さな音で鳴る線香花火に合わすように、お互い小声になりながら話す。ふと総悟を見ると、線香花火の灯りで照らされたその顔は、さきほどからずっと変わらず楽しそうで、私は総悟のこの表情が何よりも好きだなと、改めて思った。



「来年もこんなのでよければ、やろうか?」

「来年は綿菓子も用意することな。」

「じゃあ綿菓子メーカー、おもちゃ屋さんで買わなきゃね。」



よろしく頼みまさァといって総悟は、私の肩を抱き寄せ、そしてありがとうなといって、私に口付けた。



来年も、再来年も、ずっと総悟と二人で…。



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