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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

今朝方、総悟からメールが入っていた。今から行くの一言だけで、文面はいつものように絵文字もなにもないシンプルなものだ。だけど、違和感だ。だっていつもは、



「今から行くなんて、いつも連絡なしに勝手に来るじゃん。」



よく分からない総悟のメールを見ながら、急いで歯磨きを済ませ、朝食の用意をする。総悟がくるなら、和食にしようと、冷凍保存してあったご飯を用意し、おかずを漁りに冷蔵庫を開けると、玄関先で音がした。



「…早くない?」



メールの受信時間を確かめると10分前。屯所が近いとはいえ、早い気がする。もしかしてまた勝手にパトカーを私用で使ってきたんだろうか?



「おはよ、総悟。」

「おー。飯、こっちで食べやす。」

「うん、待ってね。ご飯はあるんだけど、おかずが……卵はあるから、たまご焼きして…あ、煮物が少しあるな。あとはー…」

「汁物がありゃ十分だろィ。」

「わたしはね。総悟は足りないでしょ?」



合鍵で家に入ってきた総悟は、手慣れた様子でテレビをつけ、定位置に座り、新聞を読み始めた。付き合い始めてから、時々こうして家にご飯を食べにくる総悟なので、とてもその光景に馴染んでいた。



「(あれ?)」



てっきり今日は朝から来たため、非番なんだと思っていた。しかし、目の前の総悟はきっちり隊服を着ている。仕事ならご飯は屯所の食堂で食べられるはず。なのに、わざわざ早起きまでして、私の家に来て、また屯所に戻るのはどう考えても手間だし、不自然だ。 



「朝ごはん、嫌いな献立だったの?」

「いんや、食堂のばーちゃんの飯は相変わらずうまいぜ。」

「それなのに、珍しいね。総悟がこうやって朝ごはん食べに来てくれるの。」

「名前の方がうめぇからなー。」

「…珍しいね?!」



総悟が私の料理を褒めるなんて、初めてだ。まずいとは言われたことないが、美味しいともいつも言わない。ただ、嬉しそうに食べるから、その顔だけで十分だったが、言われたら言われたで、これは嬉しい。



「何時に戻るの?」

「おめぇこそ今日は何時に店の作業始めんでェ。」

「んー、今日は荷物少ないから開店少し前かな。」

「んじゃ、その頃合いに戻りやす。」

「少しゆっくりしていけるね。待っててね、すぐご飯用意する。」



総悟のお腹を満たしてあげたくて、フル回転で冷蔵庫の残り物で献立を考える。魚はないけど、豚肉ならある。それなら具沢山の豚汁にしてしまえば、おかずも合わせて十分だろう。早速、まな板を用意して具材を切りかかろうとした時、ふいに後ろから誰かに抱きつかれた。誰かって、どう考えても総悟しかいないのだけど。



「ど、どうしたの?!お腹減って力でない?!」

「んなわけねーだろ。」

「じゃあ、なに?」

「文句あんのかァ?」 

「まさか!むしろ嬉しいよ。でも、」



今朝方のメールに始まり、さっきから総悟の様子がおかしい気がする。いまだに顔を合わせてから一度も悪態を吐かれていないし、やけに素直だし、それから…



「あ、そっか。今日は甘えたさんなんだ。」

「…うるせェ。おめぇの前でくらい、いいだろィ。」



…素直すぎる総悟に、私の口が思わずにやける。私の前でしか見せない、私しか知らない、総悟の姿。この瞬間、私は優越感でいっぱいになる。



「…そのまんまでもいいけど、今から包丁使うから、気をつけてよ。」

「おっと、油断しやした。」

「わざとでしょ、いまわざと体揺らしたでしょ!!どうすんの!ここでわたしがグサッといったら!!」

「吸って止血してやりまさァ。」

「血吸うとか、ヴァンパイアなの?」



なんていえば、悪ノリした総悟が思いっきり首を噛んできた。そう、思いっきりだ。



「いった!!!手加減なし?!?!」

「牙ねーんで、血吸えねぇや。悪ぃ。」

「いや、謝るところそこじゃないから!!」

「なんでィ。吸血鬼プレイしてぇんじゃねーのかよ。」

「したくないよ!!てか、なに?!吸血鬼プレイって!!朝からなんの話!!」



こういえばああいう総悟に、首の痛みもあってか、少し腹が立ったが、甘えてくるってことは、総悟に何かあったということだ。ここは怒らず、好きなようにさせようと私は決め、もう一度、邪魔にならないようにね!と釘を刺して、料理を再開した。



「あ、いいこと思いついた。」

「…(総悟のいいことは大抵いいことじゃない。)」

「やっぱ朝飯いらねぇ。代わりに名前な。」

「は?!」



ほらね!やっぱり!いいことじゃなかった!!私の不安は的中して、総悟は私の手から包丁を奪い取り、そのまま手を引いて台所から連れ出した。待って落ち着いてなんていっても、総悟は聞き入れてくれない。そして、二階へと上がり、私の部屋に入るなり、そのまま布団へと押し倒した。



「待ってください。これは一体どういう、」

「そういうことでさァ。」



にんまりと笑った総悟に抵抗できるわけもなく、私はそのまま久しぶりに総悟に身を委ねた。





「…いま何時?」

「あと数分で店にいかねぇと間にあわねぇ時間。」



まじか。急がなきゃと思うのに、身体が動かない。怠いし眠たい。そんな私に追い打ちをかけるように、隣で総悟が髪を撫でてくる。その心地よさに、本当に寝落ちしそうだ。



「先に、シャワー浴びてもいい?」

「動けんのか?」

「…んー。」



動けないけど動かなきゃ。と思うのに。脳内ではちゃんと服を着てシャワーを浴びて、仕事に行く自分がいるのに。現実は手厳しい。今日は荷物は少ないし、配達も出張買取もない。取り急ぎの客注もないし、それに、



「雨、降ってきた?」

「みてぇだなァ。」



雨か…。雨なら余計に店に人は来ない。…このまま休んでしまおうか?なんてわりと本気で考えていると、私の考えを見え透いたかのように、総悟も休めば?と言ってきた。



「やだよ…頑張るもん。」

「俺ァ、このまま休みまさァ。」

「公務員はダメでしょ。」

「土方の野郎がどうにかするから問題ねぇ。」



問題ありだよ。土方さん副長だよ。副長に仕事任せてサボる部下なんか許されるわけないのに、総悟は本当に行く気がないのか、慌てる様子もなく枕元にある置時計をパタンと倒した。



「時間見えないじゃん。」

「見る必要ねーだろ。」



甘えたの次は駄々っ子か。一体、今日は何があってそんな総悟になっているのか気になるところだが、総悟の性格上、絶対に何があったかは言わない。だから私も聞かない。話したくないことは話さなくていい。その代わりのきっと甘えだ。だから私は、甘んじて受け入れるだけでいい。



「ちょっとだけ一眠りしよっか。」

「…休んでくれんのかィ?」

「うん。だから、今日はずっと一緒にいてね、総悟。」



土方さん、その他真選組のみなさんごめんなさい。そう、心の中で呟いて総悟の腕の中で眠りについた。もちろんそのあと、副長様が迎えに来て、二人揃って怒声を浴びせられるのはもう少しあとのこと。



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