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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

お店の閉店間際、銀さんがいつものようにやってきて、甘いもん食べに行こうぜっていうから、甘味屋にきたのに。美味しいはずの団子が、喉を通らない。



「銀時こそ、ふざけんなし。わっちはそんなことはせん。」

「本当かよ、お前らは信用ならねーからなぁ。」

「一番信用ならん男に言われたくない言葉だな。」



二人で歩いて甘味屋にきて団子を注文したまではよかった。けど、団子が来る前に、この人がたまたま前を通りかかってからは、最悪だ。なにが最悪かって、それはもちろん私のことだ。



「名前もそう思わんか?」

「へ?あ、はい!え?」

「おい適当に相槌すんなよ、名前は銀さんの味方だろ?」

「いや、別に。」

「そこ否定すんなよ!」



この人、月詠さんは吉原の自警団の頭領だと、初めて会った時に銀さんから紹介された。吉原といえば、前の世界でもよく知られた名で、どんな場所かはもちろん知っていた。この世界でもその場所の意味は変わらないらしい。なんでそんな人が銀さんと知り合いなのか、私の最低な勘繰りはそこから始まった。



「なんだ、名前全然食べとらんじゃないか。調子でも悪いのか?」

「なら俺が食べてやろうか?」

「クナイでさされたいのか?これはわっちが名前に奢ったもんだ。」



美人でスタイルも良くておまけに胸も大きい。気遣いもできるし、男に媚びないサバサバした性格に、煙管がよく似合う。ダメなところなんてきっと、どこ探してもない。完璧な女性だと、最初は感嘆した。そして、そんな女性が銀さんの隣にいること。隣にいても違和感がないことに、私は嫉妬した。



「(嫉妬、なんてする立場じゃないのに。張り合う相手も間違ってるし、…いつもこうやって惨めになるの、どうにかならないかな。)」



銀さんと月詠さんの楽しそうな会話を聞きながらお茶をすする。いつもこの二人は喧嘩のような言い合いをしながらも、よく笑い合う。気が合うんだろうなと横にいて思う。



「そろそろ戻る。名前、食べきれないものは包んでもらうといい。」

「あ、はい!ごちそうさまです!」

「銀時、たまにはこっちに顔だして日輪と清太に会ってやれ。」

「はいはい、気が向いたらなー。」



それじゃ、といって月詠さんが立ち去ると、私は小さく息を吐いた。月詠さんが悪いわけじゃない。勝手に気を張っている私が可笑しいのだ。



「大丈夫か?」

「え?」



なにがですか?と問えば、月詠の言う通り全然食べてないし、さっきから元気がないと銀さんに指摘され、私は慌てて笑顔を取り繕って、なんでもないと手を振った。



「そろそろ、帰りましょうか。」



銀時って呼び捨てするのも、月詠って呼び捨てされてるのも、どっちもいいなぁなんて思ったり、こっちに顔出せって、吉原に顔を出せってこと?それってつまり、そういうこと?なんて、勘ぐったり、



「(…もう、疲れた。)」



私は銀さんのなにものでもない。嫉妬なんて、お門違いだ。そう、何度も何度も自分に言い聞かせるのに、



「よっ…」

「よ?」

「吉原っ…に…よく行くんですか…?」



なんでそんなこと聞いちゃうの私。バカなの?まだ何か、期待に縋り付いているんだろうか。



「ん?…まぁな。つってもあれだぞ、あいつらに会いに行くだけで、客としては行ってねーぞ。」



別にそこまで飢えてねーし?てか俺のことどんな風に思ってんの?なんて銀さんは笑うから、私は泣きたくなった。客として行ってなくても、月詠さんに会いに行ってる。そう、月詠さんに…



「っ……」

「え?な、どうした?!名前?!なんでお前泣いてっ!」

「泣いてないっ!!!」

「いや、思いっきり泣いてんじゃねーか!」



おいおいどっかまじで痛むのか?と心配しながら背中をさすってくれる銀さんの優しさに、私は余計に泣きたくなって、もうこの醜い感情も、どうしようもなく溢れる気持ちも、全部全部吐き出して、楽になりたいと思った。それがたとえ、これまでの関係を崩すことになったとしても。きっと私はもう耐えられない。



「好きっ…なんですっ…銀さんがっ!だからっ…わたし…っ!」



ごめんなさいごめんなさい。一方的に、勝手に、想いを告げてしまって。自分の醜い感情に耐えきれない弱虫で、ごめんなさい。でも、それほどまでに銀さんのことが好きなんです。私は泣きながら、それはまるで子どものように謝り続けた。すると、それまで黙っていた銀さんが突然私を抱き寄せ、そのまま抱き抱えて立ち上がった。



「へっ?!」

「おいばーさん、代金ここ置いとくぜー。んじゃ、帰るか。」

「銀さん!ちょっと、おろしてっ!」

「うるせぇ。大人しくしてろ。」

「で、でも!人目がっ!」

「泣いてるやつがなーに言ってんだよ。それに銀さん早く帰りたいの。一刻も早く。だから黙って大人しくしててくんない?」

「きゅ、急になんで…」



ていうか私の告白は?もしかして流された?突然の行動に、銀さんがなにを考えているかわからず、今度は不安からまた泣きそうになっていると、ボソッと銀さんが口を開いた。



「好きな女に告白されて冷静でいれるわけねーだろ。早く二人っきりになりてーんだよ。」



銀さんの思いもよらない言葉に、思わず涙も止まる。待って、いまなんて言ったの?



「こっちはいつ言おうか、こういうのは女が喜ぶシチュエーションもあんのかとか、そりゃあいろいろ考えてたっつーのに、なんで名前から言っちゃうかなぁ。しかもごめんなさいってなに。誰に謝ってんの?」

「銀さんっ…銀さんっ!!」

「あー、よしよし。わーってるよ。嫉妬して告白とか、お前可愛すぎだろ。」



言っとくが俺も相当嫉妬深いからな、お前の比じゃないないからなんていう銀さんがたまらなく愛しくてたまらなくなって、私はまた泣きながら何度も銀さんの名を呼んだ。


好きです、好きです、大好きです。



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