話 | ナノ



ノスタルジア


夢であればいいのに、
そう願って強く瞬きをしたら視界に入ったのは見慣れた天井だった。

光景が目に、耳に、焼き付いている。
今自分が起きているのか寝ているのか、わからない。ただ、どうしようもなく漠然とした不安と恐怖がある。

何かに取り憑かれたように枕元にあった携帯を開き、目に痛む人工的な光さえ気にせず必死で電話をかけた。

「…はい、もしもし」

機械的な電子音は2コール目で切れて聞き慣れた声に代わった。
どっ、と身体の力がぬけて、ついでに涙腺も緩んで、あっという間に視界が塞がって鼻が詰まって、わたしは小さい子のように声をあげて泣いた。
電話越しの声は、わたしが鼻詰まりの為泣きを中断するまでの間、何も聞かずただ「大丈夫だよ」と繰り返した。

「……わたしさぁ」
「うん」
「生きてる?」

電話越しの声は、少し息を吸い込んだ。

「大丈夫だよ、生きてる」

あぁ、

「そうか…それならいいや」


***


『じゃあ…切るね。変な時間にごめん』
「いや、なんもだよ」
『ゆっくり、寝てね』
「ん、ありがと」
『おやすみなさい』

「…名前」

プツン

「名前…」

『"この録音音源を、削除しますか?"』

耳に届く機械的な女性の声はもう、すっかり聞き飽きてしまった。

それでも俺は、何度でも聞くから。
贅沢なんて言わない、声が聞けなくたって、一目また元気な姿を見るだけだっていいんだ。
だから、頼む。

「戻って、来てくれ」


***


「……わたしさぁ」

「うん」

「生きてる?」

「大丈夫、生きてるよ」

「そうか…それならいいや」

「うん」

「あのね、ふじくん、怖い夢を見た」

「…どんな?」

「わたしが、消えてしまう夢だった」

「ほう」

「なんだかよく分からない偉い人に、お前はいらないとか言われて、この世から消される夢だった」

「じゃあ今度は俺がその夢に入ってって、偉い人たちに抗議するよ。ちょっとタンマ!っつって」

「ふ、なんだそれ」

「だって、名前が消えたら…嫌だからなぁ」

「うん…消えないよ、わたしは。

だって、消えたらふじくんが悲しむでしょう?」




全ては過去のお話





掴み所の無い、ふわりとしたお話にしたくて雰囲気を第一に書いた結果、文章力と構成力の無さが明白に…(細かい設定や辻褄が合っていない部分が多々)…気にせずに読んでいただけると幸いです。精進します。

20141227
20150728 改変


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