話 | ナノ



日出刻、透けるような蒼を連れて


目覚まし時計のけたたましい機械音で目が覚めた。
ピピピ、ピピピ、
毎朝聞いているはずの規則正しいリズムが、やけに耳障りで。五月蝿い、と呟きながらボタンひとつで音を止める。開いた目が捉えたアナログ時計の針が指すのは6時。あぁ、そういえば平日設定のままだったなと思い出してごろんと寝返り。今日は土曜日…うん、あと三時間は眠れたな。
瞼を閉じてみるも、驚く程に夢の世界へ飛び立つ眠気が残っていない。完全に目が覚めてしまった。

ゆっくりと身体を起こして枕元の携帯を引っ掴む。と、ほぼ、同時。掌に伝わるバイブレーションとチカチカ点灯するライトが、メールの受信を報せる。
…もう一度時計を確認してみる。…うん、6時だよね、朝の6時。…こんな早い時間に誰だよ。
ディスプレイに表示されている送信源を見て、手から滑り落ちそうになった携帯を慌てて持ち直す。え、なんで、この人がこんな時間に。
恐る恐る本文を開けば、今度こそするりと手元から抜け落ちた携帯。しかしまた「なんで、」と考えるより先にベッドを飛び出て。側にあったパーカーを羽織りながら携帯をポケットに滑り込ませ、玄関へと走った。

『…おはよ』
「…お早うございます」

ドアを開ければ目の前に居た、一ヶ月くらいぶりの、彼。
ゆるゆるふわふわな髪が相も変わらず目の辺りまで伸び、あまり好んでかけない黒縁の眼鏡をかけて。欠伸と共にくれた早すぎる朝の挨拶、その声はいつもより少し低く掠れている。あ、この人、

『…ねみぃ』
「でしょうね」

ばれたか、と笑うその声も力無い。…あまり眠れていないのか。

「どうしたんですか、休みの日こんな朝早くに」
『…いや、ちょっと…なんとなく』
「わたしが起きてなかったら玄関前でずっと待ってるつもりだったんですか」
『あ、そっか、そうなるのか。あっぶねー』
「…あっぶねーですよ、ほんと」

本当に、何も考えずに来たんだなこの方。
呆れと安心とで思わず出た溜め息に、気付いた彼が首を傾ぐ。

『んー、でも…なんか、ね。起きてる気がしたの、名前が』

そしたらほら、本当に起きてたしょ?寝坊助な名前がさ。俺エスパーかも。…なんて言っては、ふふ、と微笑う。
疲れているならわざわざ来てくれなくてもよかったのに。家でゆっくり休んでいてよかったのに。
ほんとにもう、この人は。

「藤原さん、今日、仕事は」
『ん?あるよ』
「時間大丈夫なんですか」
『あー、うん』
「…早めに帰って少しでも睡眠時間をとってから、」

その先は、口元に当てられた手によって遮られた。目の前には少し不貞腐れたような表情、かと思えば距離がふわりと近付いて、少し強めの圧が抱擁となって染み渡る。
予想外の出来事で。口を開くことも忘れたわたしの右耳を掠めた声。

『…足りない』
「…はい?」
『なんとなく来たとか嘘。名前が不足して耐えられなかった、ごめん』

…そんなのって、狡いでしょう




やって来た君は、少し寝惚け顔の王子さまみたいだ




テーマは"君不足"

20130814


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