話 | ナノ



キョヒハンノウ


イライラしてます。わたしは今、ものすごくイライラしてます。
『…あの』
「……」
『あのー』
「……」
さっきからわたしの前に座って話しかけてくるこの人に…イライラしてます。

『えっと、あの』
「……」
『あのー、』
「……」
『聞いて、る?』
「…聞いてない」
『聞いてるぢっ…じゃん!』
あー、もう、五月蝿いってば。噛んでるし。我慢できずに口を開きかけた、そのとき。
『ヒロくーん!』
…出た。

「ほら、呼んでるよ、増川くん」
『あ、いや、あの…』
おどおどする彼を残して席をたつわたし。同時に、先程わたしの言葉を遮った女子が、今の今までわたしが座っていた席に当たり前のように腰掛ける。
…はぁ。わたしは邪魔者、ですか。まぁ正直もう慣れたけど。
たった今居場所が無くなったわけだし、図書室にでも行こうかと小さく溜め息をつきながら廊下に出る。教室の中からは、仲良さそうに女の子と話す増川くんの声が聞こえた。

増川弘明。
特に仲が良いわけでもないのに、何故かいつも席が近くなったりする。その度彼はわたしに話しかけてきて。
白状すれば、わたしは人見知りだし一緒に話す相手がいるのはありがたいことだ。
だけど彼、増川くんと関わると、身体が拒否反応を示す。生理的に合わないということなんだろうと思う。だからなるべく関わりたくない、話なんてしたくないのに。

「ほんと、やめてくれないかな…」
『あ、いた』
小さく呟くと同時に背後から聞こえた、聞きたくもない声。
「増川くん…あの子と話してたんじゃなかったの?」
自然と口調も刺々しくなる。だけどそんなの気にもとめずに。
『あ、いいんだ。用事終わったみたいだったから』
爽やかに返す彼はきっと知らないんだろう。さっきの女の子が中学生のときからずっと、増川くんのことが好きだなんてこと。

「何の用事?」
溜め息をつきそうになりながら問う。
あぁ、また。目の前の彼を身体が拒否する。一刻も早くこの人から離れたい。そう思っていると、彼は言った。
『今日、一緒に帰んない?』
…は?
一緒にって、なんでまた?
なにが楽しくてわたしが増川くんと一緒に帰らなきゃいけないの。てか増川くんの家ってわたしと逆方向だよね。え、ちょっと、分からない。全く理解できない。

「…ごめん、ひとりで帰るから」
暫く呆然とした後ようやく、断ればいいんだということに気付き目線を合わせないようにして答えた。
『あ、そっか。おっけ。』
そう言うと彼は、さっさと来た方へ引き返していった。
…さっきからそれを言おうとしてたの?わざわざそれだけを聞きに、わたしのとこまで来たのか。
「(……いや、別に関係ない)」
関係の無いことだ。だってもう断ったし。
だけどなんとなく、遠くに見えた背中に少し胸が痛くなったような気がした。


***


『じゃーね!』
「うん、ばいばい」
放課後、手を振る友達に小さく手を振り返してわたしは教室を出た。増川くんのことは、正直少し頭の隅にあったけど、関係ないんだからと割りきった。
まだ人の多い校内をスタスタと歩き、帰ったら何しようかなんて考える。

「(…あれ)」
玄関で靴を履き替える途中、外に出る増川くんの姿を見つけた。隣には、先程の女子。一緒に帰る、みたいだけど
「(なんだ、)」
"一緒に帰る"相手は誰でもよかったのか。わたしでもあの娘でも。…一瞬でも、断って悪かったかなとか思ったわたしが馬鹿だった。
なんだかイライラして、靴箱の小さなドアを乱暴に閉め早足で玄関を出た。
笑いながら歩く増川くんたちがどんどんと近付く。ぎりっと唇を噛んで、わたしは横を通り過ぎた。

「(…18、19、20)」
早足のまま、20秒。歩き続けてそっと後ろを振り向く。
「(…いない)」
増川くんたちの姿は見えなかった。多分、途中の曲がり角で曲がったんだろう。
息がきれる。いつも運動していないくせに、早足で歩くのは少しきつかったみたいだ。

「…なに、やってんだろ」
ふと我にかえる。人気のない道、立ち止まってみてようやく気付いた。ムキになって早歩きなんかして、わたしは何をやってるんだろう。
ああ、きっと馬鹿になったんだ。今日、増川くんと話したりしたから。あのときから何か変だ。
「あの人の、せいだ…」
全部、全部全部あの人のせい。いつもやたらと話しかけてきて、毎朝顔をあわせたらにかっと笑って挨拶してきて。困ってたらそれを察して助けてくれて。そんなあの人の、増川くんの、せいだ。
そしてまた、ほら。

「(…なんで)」
わたしが泣きそうなとき、不思議なくらい、近くに居て声をかけてくるんだ。
ありがたいって思ってしまうほどに。

『…やっぱり、泣いてた』
走って来たんだろう、息をきらしてわたしの前に立つ増川くん。
「…泣いてない」
『でも、泣きそうな顔してる』

「…さっきの女の子と帰ってたんじゃないの」
『ちゃんとことわってきた』

「何て」
『行かなきゃいけないとこがあるって』

増川くんがわたしを見る。わたしはわざと目を逸らした。
「なんで、来たの?」
『君が、泣いてる気がしたから』
一歩ずつ、増川くんがこちらへ歩いてくる。
「近寄らないで」
ぴたり、止まった足。
…拒否反応が、出てきた。

「増川くんと居ると、身体が拒否反応を示すから…来ないで」
『…拒否反応?』

あぁ駄目だ、また、

「…心臓がすごい大きい音で鳴るし、息が苦しくてしょうがなくなるの!体温も上がって…生理的に受け付けないの!だからこっち来ないで!」
拒否してる。心臓が、肺が、身体中が。
『…あの』
「……」
『あの、』
「……」
『あの、さ』
「…なんですか」
目を合わせないまま返事をすると

『今のって、告白?』

「…はぁ?」

意味が分からない、なにをどう解釈したらそうなるの。増川くんの頭はどうなってるの。

『えっと、自惚れだったらごめん。その…俺に近付くと心臓がドキドキして息が苦しくて体温上昇するっていうのは俺のことが好き、ってことかと…』

わたしが増川くんをすき?

「…有り得ない」
『いやでも…』
「有り得ない!」
思わず上げた顔。目が、合う。かあぁっと頭に熱が集まり、心臓がうるさくて、息ができないくらいに胸が苦しい。
「…嘘でしょ」
わたしがこんな人を好きとか
好き、とか…

『俺は好き』

「…え?」

『俺は、君が好き』

なんだこれなんだこれ
なにこれなにこれ

「嘘言わな『嘘じゃないよ』

真剣な眼に見つめられたわたしは、動くことも出来ず。

「…増川くん」
『ん?』
「わたしは、」
『うん』

「…増川くんが好き…なのかな…」

『っ…そういうの、反則!』
グイ、と手を引かれて、収まった先は腕の中。自分の心臓の音と増川くんの心臓の音、ふたつの音が同時に聞こえる不思議な感覚と変な緊張で、頭が熱くておかしくなりそうだ。

『…俺の彼女になってください』

耳に届いた言葉。わたしは、ずっと前からその言葉を聞きたかったのかもしれない、なんて思うくらいに。とても幸せで。
ひとつ、確信した。

「…はい。」

わたしは、増川くんが好きだ。


***


「そういえばさ」
『うん?』

「途中まで一緒に帰ってたあのこ、ほっといてよかったの?」
『あぁ、いいんだ』

「だってあのこ、増川くんのこと好きなのに」
『あー、うん、告白してもらったこともあるよ』

「じゃあなんで」
『今はもうあのこ彼氏いるよ。最近は、相談相手になってもらってた』

「そうなの!? …相談って何の」
『いや、別に。もういいんだ』

「悩み解決したの?」
『…うん』

「そか。よかったね」
『ほんと、よかったよね…』
「?」



(君が好きだと叫んでた)





前サイトの拍手小説を引っ張り出してきました。顔から火が出そうです。穴があったら埋まりたい。
やめようかな、でも折角だから自分の文を見つめ直すチャンスかな、いやでもやめようかな、という葛藤がだいぶありました。やめときゃよかったかな(遠い目)
精進します。

20130317:移動


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