悴んだ指先を温めるように擦り合わせ、頭上で煌めくイルミネーションを仰いだ。待ち人来たらず。ここへ来るまでに白いコートを着た女の子と擦れ違った。彼氏と待ち合わせでもしていたのか駆け寄った男に遠慮なく抱き着いて笑う。いつもなら馬鹿みたいだと笑い飛ばすことの出来る光景が、羨ましいと思った。

「はー…」

白い息を赤く染まった指に吐き掛ける。待ち合わせの時間には未だ二十分近くある、こんなことなら手袋やマフラーを持って来れば良かったと後悔しても遅い。待ち切れずに家を飛び出して来たのだから、仕方ないのだ。

「まだ…仕事中、かな」
「だと思うならどこか店に入るなりして待ってくださいますか、藤内」
「…!」
「全く。数馬くんから連絡を受けたぼくが来なければ、君はあと何十分もこの寒空の下で待つつもりだったんですか?」
「……だめ、ですか?」
「駄目ですよ。ほらこんなにも冷えてしまっている」

背中から抱え込まれるようにして右手が攫われた。黒のロングコートが俯いた視線の先にちらりと見えた。待ち合わせには未だ二十分もあるのに。

「おれは平気ですから。それより、どうしてここに」
「数馬くんから藤内を見掛けたと連絡を頂きまして。藤内が待ち合わせの時間を間違えることはないとしても、早着は有り得るでしょう?」

仕事を切り上げて来てしまいましたと背後で微笑む気配がして、不意に今の態勢がとても恥ずかしいことに気付いた。こんな街中で、誰に見られているとも限らない。年上の恋人に迷惑は掛けたくないのだ、できるだけ。

「行きますよ、藤内」
「…、うん」

でも引かれた手はどうにも手放せず、降り始めた粉雪を払いもせずに背中を追った。彼の耳が赤いのはきっと寒さの所為で、おれの顔が赤いのもきっと寒さの所為なのだ。



午前零時まではクリスマス



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