閻魔さまはうんうんと言いますが、獄卒たちもまた、うんうんと唸ります。
けれど皆が唸る中、一匹、こくりこくりと舟を漕ぐ獄卒がいました。

それはまだ若い鬼で、地獄の炎に焼かれたような小麦色の肌と、三途の川のように滑らかな髪、底をさらったばかりの血の池のような瞳の、見た目は割と立派な鬼です。また、関係はありませんが、彼の爪は針山のようにするどいともっぱらの噂でした。
彼はまだ新米ではありますが、閻魔さまの秘書です。優秀な鬼で、他の獄卒たちと比べると、閻魔さまのおそばに居ることの多い仕事をしています。

獄卒たちは密かに、彼の答えに期待をしていました。
彼なら頭もいいし、自分たちより閻魔さまのことを良くみている筈だ。
彼なら、閻魔さまの褒めて欲しい所や皆の知らない良い所を何か知っているかもしれない。
彼の答えならばひょっとして、閻魔さまを満足させることが出来るかもしれない。
獄卒の誰もが、そう思います。

所がこの鬼、今とても眠いのです。
朝一番に皆でそろって閻魔さまの執務机の前に並ばされて、歳の近い気の合う鬼の隣に並んだ所から、実はもう閻魔さまの話は耳に入っていませんでした。
はじめは肘でつついてくれていた友達も、皆と一緒でとても緊張してしまって、途中からそれも止めてしまいました。
だから彼は、彼が答える番になった時、その日二度目の目覚めを迎えたのです。


「俺の事をどう思っている?」


閻魔さまは親切に、その鬼にも最初の問いを投げかけます。
彼が眠っていたことに気が付いた隣の鬼が、急いで彼のわきばらをつつきます。
皆が彼に期待をして、彼の答えを待っているのです。
それは獄卒たちだけではなく、閻魔さまもそう。他の獄卒にかける期待と、さほど変わりはありませんが、彼の答えを待ってくれている事に変わりはありません。
彼がなんと言うか、冥界の皆が、期待と不安の入り交じった気持ちで待っているのです。


「・・・ただのオッサンじゃないですか」


起きたばかりのかすれた声で、秘書の鬼がそう言った時、冥界の時間は止まったようでした。
最初は、閻魔さまを含めて皆が、彼が何と言ったのか理解できませんでした。
先に獄卒の何匹かが、これは、あってはならぬ事を言ったと気が付き、続いて他の皆も言葉が頭に届いたようです。
誰からともつかず、ざわりとざわついた空気と言葉にはならない声が上がります。
そんな中、閻魔さまの方は、うんうんとも、ふうんとも言わず、黙ってはいますがなぜだか口は開いたままです。

混乱の根源である鬼は、答えたからもう、いいだろうと思ったのか、またこくりこくりと舟を漕ぎ始めてしまいました。





「ひゃ・・・・百叩きッッッ!!!!!!」


間も無く、閻魔さまの激発が、狭くも広くもない執務室にこだましました。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -