閻魔の部屋、姿鏡の前、足元に沢山の着物が散乱している。
閻魔の着物も、鬼男の着物もある。
閻魔の着物は派手な柄が多くて冬物、鬼男の着物は地味な柄が多くて、何故か夏物が多かった。
「変わったの着ますね」
「そう?これが駄目な元凶?」
「別に着物のせいではないと思います」
似合うと思いますしと、派手な柄の着物を閻魔に着せて、渋い色の帯を合わせてやりながら鬼男は言う。
それって、駄目なのは俺自身とかそういうオチなの?と閻魔はちょっとしょぼくれる。
意外にすんなり話に乗ってくれた鬼男に、まず何から改造をするんですかと聞かれて、迷った末に「服」と答えた。
イケメンはかっこいい服を着ているんだろうと言う、安易で適当な発想からだ。
実際、何からと聞かれるとよくわからなかった事もある。
仕事で「原因を理解して、それを変えなければ何も良くならない」なんて当たり前に言うけれど、それが何より難しいと閻魔は思い知った。
じゃあ僕の服も一応持っていきます、と鬼男は言った。
この子が真面目で良かったと、閻魔は思った。
それから二人で、ああでもないこうでもないと、閻魔の一張羅選びを結構長い時間続けている。
「違うなあ・・・」
「これは?」
「それはちょっと時代遅れだと思います」
「ひどい」
「はは・・・大体選んだって、見せる人はいるんですか?」
鬼男は閻魔の帯を解きながら、顔を傾けてにやりと笑う。
だからそれを探すんだって、と言って閻魔は顔を伏せた。
自分の腰の辺りに、褐色の腕が回されている。
手もきれいだし、爪もきれだ。いいなあと思うのと同時に、ふいと視線を逸らしてしまう。
もっと彼を見て、勉強するべきかとも思うのだけれど。
はじめてその存在を意識してから、今までとは違う気持ちで、秘書がちょっと苦手だと感じる。
話しづらいというのが、何を話せば?と言うのに変わった気がした。
自分は彼に何か遠慮でもしているんだろうか。とにかく、何だか恥ずかしい気がするのだ。
「・・・自分で脱ぐ!」
「じれったくなりましたか?」
「言い方がやらしいよ」
「え?どこがです」
もーなんでもないと言って、秘書の肩を押してしまった。
しゃがんでいた彼は、よろけて後ろに転げながら笑った。
話してみれば、彼も結構普通の子で、気安い。
ごめんと言って助けおこしながら、気になっていた事を彼へ聞いてみる。
「ねぇ、鬼男くん彼女っているの?」
「この激務でですか?」
「・・・いないの!?え〜騙された」
「誰のせいですか」
どう考えたって、彼女は無理ですよと鬼男は言う。
閻魔大王だって大変でしょうけど、と遠慮して、秘書だって僕には結構大変ですと笑う。
「俺の下につくまで、彼女はいたの?」
「ええ」
「うわ、やだ!じゃあ別れたの・・・?」
「仕事をおろそかにはできませんから」
「・・・それって、彼女より仕事が大切ってこと?」
閻魔の着物を着せ替える作業に戻った秘書へ、素朴な疑問をぶつける。
色んな考え方や言い方があるだろうけど、さっきの話だと、彼はどうやら恋を仕事の犠牲にしたようだ。
鬼男はしばらくううんと考える。
「閻魔大王はどっちがいいと思いますか?」
「なに?」
「仕事と恋人、どっちを大切にして欲しいですか?」