「俺モテたいんだけど」
「・・・はぁ?」
仕事終わりに挨拶に来た鬼男へ、閻魔は唐突に言う。
その事をずっと考えていた閻魔にとっては、普通のタイミングだった。
けれどそんな事知りもしない鬼男にとっては、おじさんが突然思っても見ない事を言い出したので、訝しげな顔をする。
なんなら閻魔は、その時はじめてまともに秘書と向き合ってみる。
じっと見る。
秘書は金髪だ。
背は割と長身の閻魔と同じくらいあって、肌は小麦色、瞳は渋いピンク色をしている。
姿勢が良くて、自信ありげで、凛としている。
その姿に彼のメールがだぶって、何だか分からないけれど、妙に恥ずかしい気持ちになる。
「夜ふかしをしないように 鬼男」。それを、彼は寝る前、自分に送ったりしているのだろうか。いや、そうなのだけれど。
「いきなりなんですか」
「・・・いや、ずっと考えてたんだってば」
「だってばって、聞いてないですよ」
「言ってないし・・・」
閻魔大王はどもってしまう。
この秘書を前にすると、やはりいつものノリで話せない。
秘書ははあと溜息を吐いた。
それは知らなくて当たり前だろうが、と呆れたように呟く。
睨むような目で見られて、閻魔は身がすくむ。
「それで、どうしたいんですか?」
「俺をね、鬼男くんに改造してほしいの」
「改造って、どういう?」
「モテるように!」
「なんで僕なんですか?」
「かっこいいから!」
言って、閻魔は自分でも、この男がかっこいいと理解したらしいと気が付いた。
それに少し驚く。
一方鬼男も、閻魔がそういう風に思っているとは知らなかったので、驚いた顔をした。
呆気にとられたような顔の男が二人、「モテる」と言う話題について、二の句が継げなくて、向かい合って立ち尽くしていた。