金木犀の咲く丘の上に、白い洋館がある。
ある日そこに若い実業家とその妻、召使い達が越してきた。
屋敷は街から少し離れているので、問屋の使い走りである鬼男はそこへ用聞きへ行くことになった。

屋敷へ向かうには、丘の下にある小さな橋を渡る。やや弓なりの形をした、苔むした古い石橋だ。
その辺は広い緑の野原になっていて、ぽつぽつと金木犀の木があり、満天の星空のように白い小さな花を咲かせていた。
屋敷の周りの金木犀は白かった。
街にも金木犀なんかはいっぱいあったけれど、花の色は橙色のものばかりだ。
なぜ洋館の辺りだけ白い花の木が多いのだろうと、街でもたまに話題に上がる。
それはあの洋館の持ち主達の噂話とともに。

あそこはどうやら人の居付けない土地柄のようで、色んな金持ちや物好きが入れ替わり立ち代り住んでは、いつの間にか売りに出される。

だから色んな噂が立つ。
あいつは事業に失敗しただとか、くろい仕事をしていただとか。
果てはあすこで狂科学者が人体実験をしているとか、軍隊が秘密基地をつくっているという珍妙なものまであった。全部は世間話の延長だ。

勿論今度の持ち主にも、話好きの町人達の間で早速噂が立つ。
しかし今度の噂は、いつもと少し毛色が違った。
それは他人の不幸話でも、まして奇談でもない。
鬼男も耳に新しい話だと思って、珍しくお客の雑談に付き合った程だ。

どうやら今度の主人の妻というのは華族のお姫さまらしい、と言う。
夫は町人出の今の時代らしい成金の男だ。
それが家名欲しさに、金に物を言わせて、没落華族の女を妻にしたと言うのだ。
華族と言えば親王はては天皇の妻にさえならない身分ではない。
そんな女が平民の男へ嫁いだ。降嫁だと言って、町人達はおかしげに騒ぎ立てるのであった。

まあこのご時世、ないことではないと鬼男は思う。
華族たちの禄も下がりよっぽどの名家ではない限り、娘息子がどこぞへ売られたと言う噂だって良く耳にする。
しかし農村出で奉公人の鬼男にとっては噂話以上の真実も、興味もない話ではあった。

ただ頭には鉤鼻で細目のおたふく女が浮かんでいて、その顔だけでも一目見てやろうと思うばかりだ。

屋敷が近づくに従って、甘い香りが強くなる。

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