鬼男と別れて何日か経って、閻魔の携帯へ見覚えのない番号から着信が入った。
誰だろう。そう思って、何となく通話のボタンを押す。
もしもしと言う呼び掛けの声に、聞き覚えがあった。


「・・・鬼男くん?」

「お久しぶりです。閻魔大王」


聞こえてきたのは間違いなく、鬼男のあの自信に満ちた声だった。
鬼男と、番号を交換した記憶はない。
現に閻魔は彼の番号を知らなかった。
どうして番号を知っているのか尋ねると、笑って、あの晩閻魔が眠っている間に、勝手に携帯を見たのだと言う。


「大胆だなぁ・・・」

「教えてくれなかったら、嫌だったんで」

「どういう意味?」


鼻に掛かった笑い声が聞こえて、また遊びましょうよ、と彼は言った。
閻魔はすぐには返事をしなかった。ううん、と唸る振りをして答えを先延ばす。

別に彼の事を嫌いではない。
むしろ憧れるし、一緒にいて誇らしい気持ちにもなる。
思い出しても、そのなめし革のような肌や、ジョンキルの瞳、その軽やかな姿に憧憬を覚えて止まない。
けれどそれはただの羨ましさで、例の渇望でしかなく、そのまま彼と関係を続ける事に直接結びつく訳ではない。

考える。
彼がどういった気持ちで、自分を誘うのか。
それが恋なら、閻魔にとっては避けて通らなければならない道である。
その警戒は、よもや自意識過剰の域に達していると自分でも分かっているが、偽りのその身は、うつつの恋に耐えられる程強くはないのだ。
恐怖と不可能。それは閻魔が最も嫌いで、その上常に彼に付き纏う悪魔の名前だった。
見透かすように、鬼男はまた自信に満ちた笑いを漏らす。


「慣れてるでしょう。こういうの」

「・・・ああ」


普通だったら期待外れの言葉だけれど、それに、閻魔は何より安心した。
彼は、自分の事を別段なんとも思っていないようだ。言うなれば、ちょっと気に入っているだけ。
気持ちの封が解けて、ようやく彼に心を許して、いいよ、何時が暇?と乗り気で話しを進める。

いいのだ。何でもない関係であれば、彼のようなのと付き合えるのは、願ってもない幸運だから。

笑って吉日を問うその心には、安心とともに、どこかに寂しさがあった。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -