タクシーを降りた時から、笑いが止まらなくて、脚がもつれる。
そのもどかしさも、もはや根拠をなくした可笑しさに拍車を掛けた。


「いやホント、あのハゲはみっともないですよ」

「も・・・やめて!笑い死んじゃうから!」


男は、社交場に良く姿を見せる、皆の良く知った中年の成金を揶揄してそう言う。
確かに誰もが、そう思っているだろうけれど、中々口に出せるものじゃない。
君は本当に辛辣だなあと言うと、全部本当の事じゃないですか、といかにも悪そうな顔で白い歯を見せた。
その自信と底意地の悪さ。それさえ彼の美しさの証明にしか見えなくて、閻魔はもう有頂天だ。
馴れ馴れしく肩を組んでくる男のせいで、ジャケットが随分しわになっているけれど、そんな事さえどうでも良い。

男の部屋の照明は全て、玄関口のボタンで操作出来て、面倒くさいと呟いた彼は使わないだろう部屋の電気まで全て点けてしまった。


「勿体ないよ」

「うるせぇな、だってめんどくさいんですもん」


そう言って唇を尖らせる。
多分閻魔より男の方が年下で、その上随分無礼な男だが閻魔はなぜだか悪い気はしない。
自分勝手で美しく、派手で豪華。心の繭に篭もりさえしなければ、本当はそうなりたかった。
閻魔は理想の顔を手に入れても、どこかで自分の殻を破れずにいる。
そう言ったものを踏みにじる、彼のような人間の生き方が、閻魔の本来望む姿なのだ。
だから怒りよりも、慕わしさの方がずっと大きい。

男は閻魔の身体を思い切り押し倒して、二人でベッドに倒れ込む。
布団からは太陽の匂いがして、彼は存外マメな男なのかも知れないと思った。


「そうだ、名前は?」

「閻魔。だから閻魔大王ってあだ名だよ」

「・・・いいな、それ」


大王って、偉そうで格好良いと男は言う。
このあだ名は昔友達に面白がって付けれられて、それが浸透しただけのものだ。
けれど閻魔もそれを結構気に入っている。理由は男と一緒。強そうで豪華で格好良いから。
性格こそ全く違えど、本質的な部分で二人の相性は良さそうだ。


「いいでしょ。君は?」

「おにお」

「どんな字?」

「そのまんまですよ。鬼の男」

「本名なの?」

「もちろん」


鬼男はそう言って、閻魔の唇に噛み付く。
彼の名は、まるで鬼のように豪胆なその気質に良く似合っている。

滅茶苦茶に口付けてくる彼を、意外に熱烈だなんて思いながら、閻魔は目を閉じた。


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