会場に戻ると、きらきらとしたシャンデリアが迎える。
高い天井の上、名のあるブランドの最高のクリスタルだとはじめに話した男が言っていた。

ワインのグラスを取って、手近な壁際の席へ腰掛ける。
放っておいても誰かが話し掛けてくるのだ。楽なものだと思う。
次に目が合った賓客に微笑みかけてやろうと決めた。


「一人ですか?」


不意に、隣から声が掛かる。きれいな声、若い男だ。
目を合わせるまでもなく、閻魔はええと答えて仮初の隣人へと微笑みを向けた。

次の瞬間、閻魔は仄かに頬を染めた。
なぜならそこに居た
のは、閻魔の最も好きな、派手でそしてとても綺麗な男だったのだ。
薄いグレーのスーツに金髪、褐色の肌。髪と同じ金色に縁どられたアーモンド型の目の中に、ヘーゼルの瞳が輝いている。

以前の醜い己では、美しい友人を連れていないと、声を掛けるのも躊躇われる位の美しい男だ。
間違い、以前は自分が「連れ」の方だった。けれど今は自分が主役。

お医者様、美しい顔をありがとう。
暴言を吐いて困らせまくった医者へ、心中、何度目か分からない感謝の意を述べる。
あの医院が流行りますように。(勿論、始めから評判の良い所を選んだのだけれど)


「この時間になると、さすがに疲れますね」

「うん。もうお腹いっぱいだし」


後は飲むだけだね。
金髪の男も、片手に中身が半量になったグラスを持っていたので、合わせて言ってみる。
ええほんとに。彼は悪戯っぽく笑う。正解だったと思った。


「ただ飲みなんて最高ですよ」

「そうなの?」


連れてきて貰ったんですと男は言う。少し酔いも回っている様だ。
彼の主人はと言うと話の輪からどうにも抜けられなくなって、端の方の円卓で派手に声を上げて笑う。中年の男だった。
僕だけ逃げ出して来ちゃいましたと言って、彼はグラスに口を付けた。
赤いワインが唇に吸い込まれる様子が、憎らしい位さまになっている。
釣られて閻魔も、いつの間にかグラスを空にしてしまった。


「持ってきますよ。赤がいいですか?」

「えっ、そんな悪いよ!」

「・・・はは、アンタって優しいんだ」


男は可笑しそうに笑う。
閻魔はちょっと後悔した。頼むよとでも言って、すました顔をすればよかった。
でもこの「優しい」とも言われる遠慮は閻魔の癖でもある。
彼は時々、「かっこつける」のを忘れてしまうのだ。
それはかつて、美しくなかった頃、周囲に引け目を感じていた事に由来する。
美しくもない自分なんかが、少しでも横暴な振る舞いをすれば、すぐに見捨てられてしまうだろう。閻魔はそう思って、いつだって誰にでも優しく、礼儀正しくしてきた。
その悲しいさがが、理想の自分になった今でも、どこか抜けきらないのだ。


「遠慮しないでください」

「・・・うん」

「善意で言ってる訳じゃないですよ」

「うん?」


今日はアンタをお持ち帰りしようと思っているんです。
男はその美しい姿に似合った、ひどく高慢そうな顔で笑う。
閻魔はもう、それに惚れ惚れとしてしまう。
何杯でも持ってきてよと言って、早くもサレンダーを宣言した。



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