「これって柿かなあ?」


女は嫌だ、パパイヤって書いてあると言って笑った。
ビュッフェテーブルには透明の小さな四角いグラスに入ったメロン、生ハム、そしてパパイヤだと、その横に立てられた白いカードに書いてあった。閻魔も肩をすくめて笑う。
何度食べても味の違いなんて良く分からなかった。

女は可笑しそうに唇に手をやって、笑う。
すぐに他へ興味を移す。
金のピアスが揺れる。
今日のホストの挨拶、3度も噛んだわねと言ってまた笑った。
それはこれだけ大勢の前で話をするなんて、さぞかし緊張しただろう。
閻魔は笑ったら可哀想だよ、でも面白かった。そう言って目尻にしわを作る。


「貴方って優しいのね」


こう言う事をあっさり言ってしまえるのは、彼女が生まれた時から美しくて、また、そう言う風に育てられたからだろう。
そして己も、また、彼女のお遊びに見合った美しさを持っているから。

閻魔はそれが憎らしくも、今は彼女らと同じ穴の狢である事に満足を覚える。
ちょっとお手洗いと言って、名刺だけ交換をしてその、美しい女とは別れた。















































化粧台の鏡に映る自分の顔をまじまじと見つめる。
切れ長の目、細い鼻、薄い唇。少し微笑みを作るだけで、うっとりと見とれてしまいそうな、正に理想の顔がそこにはあった。
閻魔はその艷やかな黒髪をかきあげて、はげてこないといいなと思う。

彼は生まれた時、今とは違う顔をしていた。
それがずっと、とても嫌だった。

遊ぶのが好きで、派手な所が好き。派手な顔はもっと好き。
彼は元々社交的でスタイルだって良かったから、遊びに事欠くことはなかったけれど。
それでも、自分自身の理想とは異なる自分の顔が大嫌いだった。

かつては良く友人達にそれを言って、呆れられた。
今のままだって十分いい子なのに何が嫌なの。それを気にし続ける事の方が、よっぽど悪いよ。友人達はいつだってそう言う。
けれどそれは、彼らが美しいからだ。自分の気持ちなんて分からない、閻魔はいつもそう思っていた。
自分が最も欲しい物を、生まれた時から持っている彼らを憎かったのだ。

だから彼は自分の顔を変えた。3年前の事。
友人達と同じ様に、半ば呆れ顔の医者に噛み付く様に注文をつけて。
寸分の違いもない様に、百分率を満たす完璧な顔を彼は手に入れた。

そこから彼の人生はがらりと変わる。
彼にはもう何の躊躇いもなかった。醜い己への引け目なんて、メスで切り裂いて捨ててしまったのだ。

まず、付き合う人間を変えた。
以前の冴えない自分を知る人達なんかとは、もう一緒に居たくはなかった。
以前とは違う、派手で明るい友人をもっともっと増やして、望む通りの美しい世界に、彼は魅了された。
美しい人の隣に並ぶ、遜色のない自分。この上なく幸せだった。
それが虚飾の姿だろうと、彼にとっては。


「ほんと幸せ」


自分の白い頬をつついて、閻魔は悪戯っぽく笑う。


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