角の生花店で彼を見かけたのは、他愛ない買い物の途中だった。
東洋から来た留学生と2人、楽しそうに花々を眺める。
時折目に留まった一草を指差して、向かい会って笑い合っていた。
彼に似た黒髪の、大人しそうな青年。たまらなく何かが憎くなった。
僕は駆け出す。何が憎いかなんて、考えもしなかった。ただ答えは彼、ベル教授の隣で罪のない笑顔を讃える彼。
彼が憎悪だと僕はそう、認識した。
「最近、生徒が一人行方不明なんだ」
「…へぇ?」
君も知ってるだろう、あのニッポンから来た、いい子なんだよ。
ニッポン、と生徒に教えられたままの発音をたどたどしくなぞる姿が愛おしく、一方で何処か加虐的な気持ちを誘った。
「女でも出来たんじゃないんですか、きっと今頃楽しくやってる。彼、魅力的な笑顔してたじゃないですか。…貴方も知ってる」
「どういう意味か分からないけど、…ワトソンくん、今日はもう私は失礼するよ」
明ら様な嫌悪を言葉に、瞳に称えて、彼は静かに席を立った。
何だよ、自分が悪いくせに。僕は舌打ちをして、彼の背中を睨んだ。
「分からないなんて、薄情ですね。彼も報われない男だった訳だ」
そう告げると、怪訝な顔で彼が振り返る。
「…何だい、何の話だ」
「馬鹿にしているんですか、僕もあの、あいつみたいに単純だと思ったら間違いですよ」
「ワトソンくん、ちゃんと説明してくれ」
「説明?…説明っていい加減にしてくださいよ。全部分かってるくせに!」
「分からないよ!」
ダン、と大きな音を立てて彼が机を拳で叩いた。
ダージリンが薄茶色の水溜まりを作る。