今日の夕飯は何にしようか。9月も半ばを過ぎれば情熱的な夏も行き過ぎ、蠱惑的な秋の風が吹き始める。
そんなどこか寂しさを覚えた街角で、食材を物色しながら彼の家―今は二人の家だが―、そこへ向かう僕の胸は以前に比べればいくらか落ち着いたが、今でも確かに微かなステップを踏むのだ。
僕と彼が寝食を共にし始めたのは、まだ青葉の気配の残る6月だった。
「ジューンブライドって知ってますか?」
そんな陳腐な台詞に耳まで朱く染める彼が、堪らなく好きだった。
出会って3ヶ月。
とんだ熱病持ちだと笑うなら、好きにして構わない。そのようにされたい、だ。
愛の告白は永遠の誓いで、神への反駁だった。
それからは彼は僕に色々な顔を見せた。
恥ずかしがったり、泣いたり、怒ったり、侭、控え目に悦んだ。
それがもどかしく、面白く、振り回される度、踊ったこともない北欧のマズルカを連想させた。
知って、教えて、絡み合う腕が時折静電気を産む様な毎日。そして懲りずにまた腕を伸ばし、掴み、手に入れ、僕の物にする。僕はマゾヒスティックに恋をした。
彼に染まる自分に恒常的に興奮していた。
いつかきっと僕は彼の全てを手に入れ、きっと彼になる。
…僕が望んでいたのは完全な同化だったのだろう。
馬鹿だった。髪の色も瞳の色も、血液の温度さえ違うくせに。