「お帰り」
今日も閻魔は笑った。
血に濡れて、雨に濡れて、宵闇に佇む僕に、水色の傘を差し掛けた。
冷い手が僕の頬に触れた。
衣服の汚れも気にせず、僕は閻魔を抱きしめて、強引に唇を奪った。
閻魔は、けたけたと笑った。
大きな犬にでもじゃれつかれたように。
ああ、目の前が霞む。
血に染まる時も、太陽の元でも、堕ちていく現実の中で、思い出すのは悪魔の純潔な微笑みだけだ。
シャワーの音が、ばちばちと煩い。
バスルームの電気を付けたまま、着のみ着のまま、僕達は愛し合った。
実際には、僕は閻魔を愛していない。
閻魔も、そうではあるまい。
ただ、使いつぶすように、僕は彼の身体を、笑顔を貪って、彼は僕そのものの生涯を喰いつぶしている。
ただ、それだけの事が、今ひどく幸福だ。
「鬼男くんがいて、よかった」
ずぶ濡れで、僕の下敷きになった彼が囁く。
僕の衣服から移った血滴が、彼の上衣のたもとを汚していた。
僕は明日も、きっと誰かの運命を奪う。
そしてまた、堕ちていく不安に駆られて、彼を求める。
彼の、いずれの悪意も映さぬ、その、透き通った瞳を。
そのために、僕は必ず戻ってくる。
闇から、更に深い闇へと飛び込んで行くことになろうとも。
命をいくら、使いつぶされようとも。
僕は戻る、閻魔の元へ。
仕方がないのだ。
もう、抜け出せない。
僕は、悪魔に魅入られてしまったから。
fin.
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悪魔はいつもそうやって。
赤の反対色は緑だと言う事に今気が付きました。
いいや…(よくない!