裁きの間の、一段高くなった所に、彼の執務机がある。

彼はいかにも平静ぶって、書類に羽ペンを走らせていた。

少し伸ばした黒髪が色めいて見える。

後れ毛が一筋額を走って、それが一層悩ましげだ。

彼、閻魔大王は、深い赤色をした瞳で、ふと、僕を捕える。

二つに分裂した僕が、僕自身へ醒めた視線を向ける。


「終わったの?」

「はい」

「殺したんだ」

「はい」


そう、僕は今日、さる御仁の存在を、消した。

昨日も、今日も、そして明日も明後日も。

それが僕の仕事。

閻魔大王付゙特別゙秘書。


「じゃあ、行こう」


僕の神様は、今日も笑う。























悪鬼#05-笑う神様
















゙特秘゙と呼ばれている。

僕達は、冥界の政にとって邪魔になる輩を、処分する仕事をしている。

名目上は、秘書官。

だけど実際は、紛うことなき殺し屋だ。

誰だって手に掛ける。

知った者も、見知らぬ者も。大人も、子どもも。

全ては、閻魔大王のご意志のままに。


「ねぇ、今日の奴は、どんなだったの?」


寝物語に、閻魔はいつも、人殺しの話をせがむ。

その瞳は、ゆらめく燭台の蒼炎の元で、宝石のように爛々と輝いている。


「普通でしたよ」


大王、会った事のある方でしょう。

え〜覚えてないよ。

そう言って彼は、反対色の映る瞳を細めて、肩をゆらした。

彼には、何の悪意もない。

行っている事の汚さに比べて、彼は余りに穢れない。

上目遣いの瞳は、まるで星の涙のように美しい。


「でもさぁ、鬼男くんがいてくれて、本当に良かった」


そう、閻魔の秘書官の地位は、長い間空席だった。

そこに、新卒の僕が大抜擢。

喜ばない事はなかった。

その、実を知るまでは。


初めて会った日。
閻魔はひなげしの花の咲く、中庭の日だまりに佇んでいた。

その橙色の花弁を摘んで、興味深そうに覗き込み、屈託なく笑っていた。

意味などない。

そう言う奴だと思った。

彼は、理由や、悪意など持たぬお人なのだ。


「君に出会えて嬉しいよ」


煌めく日射しの元で、白い腕を僕に向かって差出しながら、彼はそう言っていた。

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