「閻魔大王?」
今夜も、甘い、その囁きが聞こえる。
彼は笑う、白い牙を見せながら。
美しい指先は、つ、と、俺の肩を撫ぜる。
その清潔に揃えられた、爪先。
ああ、もう我慢が出来ない!
悪鬼#06
ぎしぎしと無遠慮な音をたてる、木製のベッドが憎い。
俺に覆い被さって、繊細な金髪を揺らす、彼の荒い息遣いさえも、聞き逃したくないのに。
「あっ…あっ…んん」
「気持ち良いですか?」
彼は、少し首を傾げながら微笑んだ。
彼の額から滑り落ちた、透明の汗が、ぽたり、と俺の胸に落ちる。
見た目に似合わず、彼は激しい。
まるで、奥が打撲しているみたい。
笑えるでしょ?
最初はちょっと驚いた。
けれどその内、それが堪らなく気持ち良くなってしまった。
もう、声も震えも、止まらない。
「あぁ…鬼男くんっ…俺、イきそうかも…ん」
「良いですよ…っあ」
彼は、俺の太ももに手をかけて、一層暴力的に、俺の身体を揺さぶりはじめた。
汗ばんだ皮膚が、接地面でくっついて、彼が動くたびにアダルトビデオみたいな音を立てた。
そう言うの、興奮してやまない。
前はこうじゃなかったのに。
彼、鬼男くんと出会って、俺はすっかりヘンタイになってしまった。
そんな事さえ、今はもう、正直どうでも良い。
既に、彼に突かれるたびに、腰がびくびくと震えて、止まらない。
瞼が重い。熱い。
もう、我慢が出来ない。
「はっ…あぁっ…っ!」
白い体液を何度か、どろりと吐き出しながら、身体から、急速に力が抜けていく。
「僕もっ…そろそろ、いいですか?」
「…ふん」
力の抜けた声しか出なかった。
彼は一度、悪戯っぽく笑って、枕に倒れこんだ。
そのまま、俺の中で数度震えた。
はあ、とため息をついて、顔を上げた彼はす、と俺に手をのばす。
そして俺の髪を撫ぜながら、ゆっくりと口付ける。
近くで見ると、俺の彼氏、ホントにイケメン。
嫌になる。
それは嫉妬と、満足だ。
「好きですよ、閻魔大王」
「おれも」
溶けてしまいそうな程、甘いマスク、甘い声。
鬼男くん。
それが俺の秘書、兼恋人の名前。
「あ、そう言えば、次期の3獄管理官の任命ですが」
大臣のお付き武官でいらっしゃる、あの方で良いですよね。
ほら、先日会食された。
誰だっけ?
まあ、良いんじゃないかな。
鬼男くんも、あの方ならきっと上手くやって下さいますね、大王とも気が合いそうですし、と言うし。
彼がそう言うんなら、そうだろう。
うん、決定。
淫らっぽく、胸をはだけた鬼男くんの、八重歯がカワイイから。
鬼男くんは、シャツのボタンも留めずに、俺の頬に口付けた。
白いシャツの裾が揺れた。
「本日も、お仕事お疲れ様です」
そう言って、黄色いまなこを細めて、微笑んだ。
勝ち気なその瞳。
絶対に逃がしたくない。