「ただいま!」


妙に息を荒らげて、二時間ぴったりに閻魔は自宅へと戻ってきた。

友人たちは既に衣服を身に付けて、おう、風呂借りたぞと事も無げに言う。

ぞろぞろと連なって、時間足りねぇよと閻魔の肩を嬉しげに叩いたりしながら、玄関へと向かう。
あんなエロイ彼氏がいて、お前羨ましいな、と言われて本当にやったのだと分かった。

ああは言っていても、全部悪い冗談で、帰ってきたら遅いと怒られて、酔いつぶれている恋人でも居るのではないだろうかとどこかで思っていた。

けれどどうやら全ては甘い期待でしかなかった様だ。
段々と血の気が引いて、鼓動が高まっていく。


「鬼男くんは?」

「寝てるよ」


動きたくないって言うから、そのままにしといたんだけど、嫌な事してごめんって言っといて。
そう言う、どこか後ろめたそうな顔が余計に閻魔を苛立たせた。

自分の行いなど忘れて、友人たちへ叫ぶように帰ってと言い、寝室へ走る。

いつもと違う強気な様子の閻魔に、友人たちは少しうろたえた様だ。
とむとむごめんねと尻切れトンボに言いながら、肩をすくめてその場から逃げ出した。


「鬼男くん!」


返事はない。
けれど薄暗い室内、奥のベッドの上にぼんやりと見慣れた恋人の姿が見える。


「鬼男くん、ごめんね!」


そう言いながら、彼の元へ駆け寄って、閻魔は愕然とした。

目を閉じて、仰向けで寝転ぶ恋人は衣服さえ纏っていない。
彼の制服は下手くそだが折りたたまれて、空き缶などが散らばる床の上に置かれている。

そしてその身体は、拭われた後こそあれ、赤い跡と乾きかけの白い液体に塗れていた。
唇が少し切れてしまって、薄く血が滲んでいる。泣いたのだろう、目の端が赤かった。

閻魔は、彼は死んでしまったのではないかと思った。
方向性としては間違ってはいないが、その発想はやはり、おおうつけのそれだ。

感じたことのないくらい心臓が高鳴って、ようやく自分の犯した過ちの重さを知る。
くずおれる様に彼の身体の横へ膝をついた。

と、鬼男がふいに目を開ける。
その様子はひどくゆっくりとしていて、普段の彼からは考えられないくらいのんびりとした動作だった。


「もどったんですか?」

「うん・・・声、枯れてるね」


元々働きの良くない頭が余計に混乱して、どうでも良い事しか言えなかった。
許しを乞うにしても、これは事態が過ぎるとそういう彼の頭でも分かっていた。


「ごめんね・・・ごめんね」


出来る事と言ったら、悲壮感たっぷりの顔でそう繰り返す事くらいだった。
けれど、鬼男は表情さえ変えない。

ぼおっと暗い天井を睨んで、二、三度瞬きをする。


「とむとむ」

「なに?」

「バカ」


閻魔はもう、ただ呆然とするしかなかった。
何かが壊れて、何かが終わったと分かった。

一方恋人はもう一度目を伏せて、それからしばらくそれを開くことはなかった。


fin.

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