「何年生だっけ?」
「三年です」
そう答えて緊張から、鬼男はまたビールの缶に口をつけてしまった。
大人っぽいねと言われたが、曖昧に笑うだけで上手に返事が出来ない。
年齢で言うとそう変わらない彼らだが、高校生と大学生ではやはり全く違う。
知らない大人に囲まれて、鬼男は少し気後れしていた。
それに恋人の友人たちは皆、妙にくだけた態度で接してくる。
話しながら鬼男の肩を抱いたり、つついてみたり、何かと身体に触れてくるのだ。
変な人達だと思った。
加えて、ときおり互いに目配せしている様な気配がある。何だかおかしな雰囲気だった。
早く閻魔が戻らないかなと思っていた。
「鬼男くんさぁ、閻魔と付き合ってて嫌じゃないの?」
「知ってるんですか・・・?」
「あ、ごめん聞いちゃったんだ」
馬鹿だまってろよと言って、別の男が最初の男の頭をはたく。
ごめんね〜と困った顔で言われたので、気にしないで下さいと言って、思わず許してしまった。
本当は少しショックだった。
難しい関係だし、人にどう思われるかも分からないので、余り知られたいとは思っていなかった。
そんな気持ちを無下にして、手を上げた男が、でもさぁと言葉をつなぐ。
「ホント言って、どうなの?あいつ相当のんびりじゃん」
「お前も聞きたかったんじゃん!」
「もう言っちゃったんだからいいだろ!ねぇ、どうなの?」
「確かにそうですけど・・・」
だろ〜と全員が納得した顔で言ったので、閻魔はこの人達の前でも変わらないのだなと理解した。
そう、閻魔はひどいのんびり屋だ。
ぐずとも言えないでもない。
高校時代は遅刻ばかりだったし、マラソンではいつも最下位。勉強もそんなに出来る方ではなかった。
それから個人的な事ではデートの時間、果ては日にちまで間違える。
話しながら寝る。しかも自分が話している途中に。なんと言おうか、考え疲れるのだろうとある時気が付いた。
いらつかないでもないが、それでも鬼男は閻魔が好きだった。
それは割とせかせかした性格の自分と比べて、閻魔がひどく大らかで柔らかく、明るく見えたからだ。
彼のそばにいるとその際限のない優しさに包まれて、とても安心する。
こんな風になってみたいと言う憧れも含めて、彼に好きだと言った。
「バカですけど、いい所もあると思います」
それは本音だった。
普段の彼ならそうですねと合わせて、そこまで言い切らなかっただろう。
のどが渇いて飲み込んだアルコールに酔って出た言葉だった。
そういえばもう、少しくらくらする。
思いがけず結構いい量を飲んでしまった。
ここで止めておこうと思って、缶をそっと床へ置く。
「え〜もったいねぇ・・・」
伸びをしながら、一人が言った。
彼はすいと隣の友人を見る。やはりこれは目配せだと鬼男にも分かった。
一体何のための?鬼男もこの、妙な雰囲気に段々と不安になりはじめる。
「ねぇ、俺らの方がいいって思わない?」
「・・・えっ?」
「なぁ?」
最後の目配せを合図に、一人がふいに立ち上がる。
何だろうと思っていると、隣に座っていた男が突然、鬼男の身体に抱きついた。
「なっ!?」
「あんな薄情なやつより、俺らの方がいいって!」
逃げ出そうとして立ち上がる。
けれど酔いに足元をすくわれて、そのまま抱えられる様に後ろのベッドへ投げられた。