「久しぶり、鬼男くん」

「はあ…よろしくお願いします。どこかでお会いしましたか?」


何いってるの、俺達、恋人同士だったじゃない、と閻魔はいった。

嘘をついた。






















イレギュラル・リンカーネーション















「は…あ、うん」

「気持ちいですか?」


痛くはないですか。
鬼男は気遣わしげに、閻魔の顔を覗き込んだ。

閻魔は気持ちいよ、と言って鬼男の背に手を回した。

絶え間ない水音と鬼男の息遣いに、涙が出そうだった。

鬼男は閻魔を優しく抱く。

夢みたいだと閻魔は思った。

意外にすんなり、彼は閻魔を受け入れた。

今度の子は、前の鬼男くんより大人しそうだと閻魔は思った。

自分の事を僕というし、閻魔を爪で刺したりしない。

だから嘘をついた。


「覚えていないだろうけど、俺達ずっと恋人同士だったんだよ」


だって閻魔はずっと、鬼男の事が好きだった。

前の時も、その前の時も、ずっと昔から。

だけど、どうしていいか分からないまま、およそ千年が過ぎ、また千年が過ぎた。

面と向かって好き、なんていったら、拒絶されることは目に見えていた。

男同士、しかもプライドの高い鬼男のことだから、辞表ぐらいでは済まない。

きっと訴えられる、とそう思った。

余りにも馬鹿馬鹿しくて、胸が張り裂けそうだった。

だから閻魔は、何も知らない、生まれ変わったばかりの彼に嘘をついた。


「君は俺が好きで、俺も君が好きだったんだよ」


鬼男は何を思案するでもなく、そうですかとどこかぼんやりした様子で応えた。

あれれ、と思った。

もっと過激な反応があるかと思っていた。

鬼男の魂は、どこかで故障してしまったのではないかと思ったほどだ。

だけど恋人という言葉につられるように、今度の鬼男は閻魔を優しくあつかう。

頭をなでて、デートのおうかがいをたてて、少し特別あつかいをして。
優しく抱く。

閻魔だけに極上の微笑みをくれる彼に、閻魔は少しの罪悪感と戦うだけで、決して疑問などいだかなかった。

暖かい肌がふれあうたびに、ああ、愛しいという思いで身体が震えだしてしまいそうだ。

だって閻魔はずっと、夢に見てきた。

こうやって、優しくてかっこいい鬼男が、自分だけに振り向いてくれることを。

愛の言葉を囁く精悍なくちびるを、今すぐにでもホルマリンにつけて永遠にしてしまいたいくらい。

ずっとずっと何千年も、せつないくらいに夢に見続けてきた。


「鬼男くん、俺ずっとこうしたかったんだ」

「それはお待たせしました」


鬼男はそういって笑った。

閻魔は安心して、甘いまどろみに足をとられた。

寝息をたてはじめた閻魔の黒い髪を、鬼男はそっとなでた。


「もっと早くいってくれればよかったのに」


おかげで僕は、何度も人生を無駄にしました。

鬼男は全部覚えているということを、いつか閻魔にいうべきか少し考えた。

優しい閻魔のことだから、嘘をついたことに傷ついてしまうかも知れないと思った。

閻魔は別に、優しさから鬼男に愛を告げなかった訳ではなかった。

ただ拒絶が恐かったのだ。

だけど二人はどこかお互いを勘違いしていた。

閻魔は素直になればよかったし、鬼男はもうちょっと優しくしていればよかっただけだった。

何千年もすれ違って、ようやくここまでたどりついた。

また数千年をかけて、段々と距離を縮めていくのだろう。

神様の恋だけに、それは無駄に壮大なのだ。


fin.
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そのうち鬼男は爪で刺したりしだす。
今は我慢してるけど。
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