弟が居なくなってから二週間後「犯人」が捕まった。それは何の変哲もない、見た事もない男。

テレビでは鬼男の様な体格のいい、力の強そうな男の子が狙われる事は珍しいとか、男の性癖とか、そう言った何の結果も生まない事をああでもないこうでもないと議論する。
良く知ったキャスターやコメンテーター達が白けた顔になって踊っていた。

閻魔は両親について病院へ向かった。
ハンドルを握る父はほとんど無言だったが、途中何度か空へ悪態をつき、力の入った身体が座席を揺らすのを閻魔は見ていた。母は自分のダウンの襟を握り締め、瞬きをしなくなった瞳で震えていた。暖房を着けるのを皆が忘れていた。

薄暗い病棟の診察室のような所へ通され、まず担当と言う両親より少し歳上位の白衣を着た男が挨拶をする。他にも数人、影法師のような人間が周りに居た。けれどそれが誰なのか、担当が何の担当だったのか閻魔は覚えていない。

それはとてもショックな事かも知れないと言う。鬼男と会う事だ。
弟と会う事に何のショックもある物かと閻魔は思った。16年も一緒に居て、よく見知った可愛い弟だ。
彼らが何を言っているのか、その言葉からでは想像もつかなかった。

けれど母は外で待つと言う。父がそうさせた。閻魔は来るかと聞かれたので行くと答えた。
鬼男がいると言う部屋の前での事だ。そこはとても寒かった。
こんなに寒い所へ一人で放って置かれたのでは、可哀想でないかと閻魔は思った。

SF映画の宇宙ステーションのような長い廊下の奥、薄鼠色の壁に同じ色の扉、何の部屋なのか示す表示板やラベルさえない。白衣の男と背広の男が両開きの扉へと手を掛ける。

視界の端に映る時代遅れの、茶色い背のない長椅子だけがそれが映画ではないと告げていた。

非常灯に似た、色の付いた明かりが室内を照らしていた。
タントウの男が中央の照明を着ける。灯った照明の真下にはドラマで見る手術台の様なベッド。その上に白い布がおかしな形で膨らんでいる。人影のようで人影ではない、何かが違う。

父は近くに居た男へ、構いませんと言った。
何が構わないのだろうと閻魔は思った。

扉と同じく二人がかりでその白い布が外される。

間も無く父の慟哭が狭くも広くもない、冷たい室内に波紋の様に広がった。

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