真夜中に目が覚めた。
とても幸せな夢を見ていたきがする。

夢の中で俺は人間の男だった。
そして優しい妻と、可愛い子どもが何人か居て幸せに暮らしていた。
そんなに特別な家庭ではなかったきがするけれどとにかく穏やかで妙に幸せな生活だった。

ひどく曖昧な、あの目覚めた後のもどかしい気持ちの中でその顔も身体の温かさも思い出せはしない。

けれど確かにこの手に掴んでいた。
今は手の中にはない優しさや柔らかさが余計に、振り返ればそこにそんな現実があるのではないかという錯覚を起こさせるのだ。


「起きたんですか?」

「うん」


振り返るとそこに居るのは人間の女ではなくて、鬼男くん
満月に似た瞳をしばたたかせて俺を真っ直ぐ見ている。

起きていたのと聞けば、なんとなくと答えた。
彼の背に腕を回す。身体の暖かさだけはあの夢に良く似ている。
彼の命がそこにあるという事を頓みに感じる。彼は生きているのだと感じる。

そのまま金色の猫毛を撫でると無邪気な顔で微笑んだ。


「なんです?」

「ううん。別に」


怖い夢でも見たんじゃないですかと彼はにやつく。
閻魔さまに怖いものなどないと言い切ってやった。嘘つくなよ、という彼の表情はまだ冗談の延長だ。

こがね色のまつ毛も瞳も、からかいと少しの不安を湛えて確かにそこにある。
別段嘘も不義理も何もないけれど少しの後ろめたさがあった。
おかしな夢を見たものだ。命も誓いも彼に捧げると決めたのに。


「ごめん、嘘。ちょっと怖い夢みた」

「へぇ?・・・どんな夢です?」


忘れちったと笑って、鬼男くんの胸に顔をすりつける。
癖毛が痛いと言って彼は頭を撫でてくれた。それは優しく、温かい。

安心したのか、一度は覚醒した意識がまた無意識に囚われていく。
夢がまた近づく。

ああしかし、先ほどはなんて幸せな夢を見たのだろう。ひどく恐ろしい夢だった。何一つ望まぬ夢のはずだった。

今度の夢の中には彼がいればいい。それだけで取り分け当たり前の幸せさえいらないのだ。

彼を夢にまで引きずり込むように回した腕を背で組んで、強く抱きしめた。


fin.

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