恋は戦争
歯を食いしばられたから、その歯を舐めてやった。指をかけて口角を引き、歯茎をなぞりながら、突っ込んだ舌で頬の裏も味わった。
意地っ張りもいいですけどね。抵抗されるほど、無理強いしたくなるんです僕。嫌がる虎徹さんの顔が、とても可愛いから。
「んく!?」
喉を掴んで軽く絞めれば、我慢は長く続かない。息苦しさに呆気なく歯列をほどいて、大きく深呼吸する先に見えたのは、美味しそうな赤い舌だ。
唾液の絡んだ虎徹さんの舌に噛みついて引き出し、表も裏もたっぷりと味わい尽くせば抵抗が緩んでくる。
人恋しくて僕を離さないのはあなたなのに。いざとなると、それを認めるのが怖いんですか?
後ろめたいことのひとつやふたつ、あったっていいじゃないですか。あなたは僕よりずっと大人で、理性と感情の折り合いのつけかたを知っているはずです。
この場合、傷ついていいのは僕のほうなんですけどね。
左手の薬指に噛みつけば、申し訳なさそうな顔をするあなたに、どうして笑顔を見せることができるというんですか。指輪ごと噛み千切って飲み込んでしまいたいけど、そんなことをしたら二度と傍にはいられなくなってしまうから、しぶしぶ我慢しているんですよ。
僕は。
僕は、あなたが好きだから、どんな狡い手段もいとわない。
あなたには大事にしているものがたくさんあるので、その一部に埋もれてしまわないよう、存在を主張し続ける。
あざとくても、卑怯でも、正々堂々の裏を行っても、なにがなんでも、僕は虎徹さんが欲しい。
強引なキスは、ためらうあなたに覚悟を決めてもらうため、僕の決意を知ってもらうためのもの。
「虎徹さん」
唇をすりあわせながら名前を呼べば、睫毛が触れる距離で覗きこんだ琥珀の瞳が、僕を見つめ返している。
「そんなに熱烈にしがみつかないでください」
「!?」
服越しに重なった胸から、鼓動の早いビートが伝わってくる。抱きしめられているのは僕なんだと気づかせても、虎徹さんの腕はほどけなかった。
だから、ねぇ?
「僕が好きなんですよ、あなた」
「な、にを」
「ですよね?」
「バニー…」
「バーナビーです。言えないなら求めません。さあ、頷いて。僕を好きなんですよね?」
「………」
しがみつく腕に力が入って、強く抱きしめられた。肩口に額を押しつけるようにして顔を隠されたけど、今日のところは許してあげます。はっきりと頷いたのがわかりましたからね。
「なら、キスを」
見下ろした虎徹さんが、瞼を閉じた。
唇の向こう側、歯はもう噛みしめていない。
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