おじさんの誘惑 拍手文


 常々思っていたことだが、このおじさんは卑猥だ。無防備でだらしないうえに、卑猥だ。
 人の家にきてシャワーを浴び、ガウンを羽織ったまま力尽きてしまったのは仕方がない。不眠不休で事件にあたり、気がつけば二日目の朝になっていたのだ。ろくな仮眠もとらずにいたおじさんは疲労困憊といった様子で、自宅に帰りつくことが出来なかった。
 そしてここでは、ベッドにも辿り着けずに眠り込んでいるというわけで。
 床に横臥して体を丸めているのは、まぁ許容できる。由々しきはそこではない。
(…なぜ、下着をはいていないんだ…)
 捲れあがったガウンの裾から見える、まろい尻。形良く引き締まり、つやつやと輝く尻。
 あろうことか、割れ目にある桃色の窪みを晒し、閉じた太股の狭間には柔らかな嚢までちらりと覗かせている。
 視覚の暴力とはこのことだ。見たいものを見られないのは苦痛だが、見たくないものを見せられるのもまた苦痛。いや、見たくないわけじゃないが、…むしろ見たい…いやいや、そうではなくて、あれだ。ともかくあれだ。
 破廉恥極まりない。まったくもって破廉恥極まりない!
 寝不足なのは僕も同じなのに、誘惑してくるとはどういう了見だ。狙ってのことならたいした度胸。無意識ならば、その非常識をきっちり躾し直しさなければならない。乳首隠して尻隠さずでは、公然猥褻罪で逮捕されるは必定だ。ヒーローにあるまじき振る舞いだ。
 デリケートな柔らかさの嚢を、指の腹にのせて優しく摘まむ。ふにふにと玉を転がすように刺激すると、もぞもぞと脚が動いて嫌がられた。膝を掴んで開かせて、あられもなく股間を晒してやれば、そこには、いまだ反応をみせずに項垂れたままのおじさんがいる。
 黒々とした茂みから下がるおじさんは実に可愛らしい。固く膨張したときのいやらしさはなく、むしろ幼ささえ感じてしまう。
 ああ、まずい。倒錯的すぎる光景に、身も心も高ぶってしまった。
「…ふ…。んん…」
「起きました?」
「バニ…やめ、ろよ…」
「どうして? こんな格好でいるクセに」
 勃起へ導くためにゆるゆると扱きながら、いまだ開かない瞼へと口付ける。薄く柔らかな皮膚は眼球の形を浮き立たせていて、疲労の具合を伝えていた。
「じゅんっ…てなるから…ダメ…」
「女みたいに濡れるの?」
「うん…」
 夢うつつで気だるげに、手を払う力の無さ。舌足らずな口調はますますもって幼くて、いとけない子供に悪戯をしているような気分になる。
「濡らしていいですよ。僕が綺麗に舐めてあげる」
「いらね…。眠ぃんだよ…寝かしてくれよぉ…」
 ぺし…。
 むずがりながら伸びてきた手が、やんわりと僕の頬を打った。
 ……貴様、反撃かぁぁ! 誘惑しておいていらないとは何事だ! しかも雑!
 可愛さを振りかざせば、僕がなんでもいうことをきくと思ってるなら大間違いだ。認識を改めさせる、いますぐに!
 脱力している体をお姫様抱っこして寝室に向かえば、おじさんは熟睡モードで寝息をたてだした。穏やかな寝顔は可愛いばかりだが、いまの僕にはそれさえ欲望の火種だ。
 ベッドに下ろしたおじさんからガウンを脱がせ、裸体を晒す。均整の取れた美しい肢体にそそられて、口内に唾液が溢れだした。
 サイドテーブルの鍵つきの引き出しを開けて、中身を確認する。
 古今東西、世界中から集めたラブグッズコレクション。ほとんどが使わせてもらえずに、新品のまま。宝の持ち腐れとはまさしくこのことだろう。
「僕の願望、叶えさえてもらいます」
 日頃、させてもらえないことを、この機会に存分にさせていただきます。あなたの眠気が僕にどこまで対抗できるのか、お手並み拝見ですよ。
 いざ、覚悟!





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