八方塞がりの恋
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「これが嫉妬? このモヤモヤ…苛立ちが?」
「わけわかんねぇこと言ってねぇで、どいてくれ…」
「嫌です。苛立ちが強ければ強いほど、僕の虎徹さんへの愛が深いってことですよね」
にっこりと微笑むバーナビーは愛の探求者だ。押し倒されいいように弄ばれている虎徹は、もはや呆れて言葉もない。
(なにが嫉妬だ。こっちの身が持たないぜ)
恋愛初心者の相棒は、人並みの感情にすら特別な意味を求めたがる。
誰かを恋うる心情は、感情の機微を鋭敏にしてテンションを押し上げる。舞い上がるという異常心理に陥るわけだが、当人はまるで意識出来ないぶん、始末に悪い。
死んだ家族への思慕、家族を奪った男への憎悪。バーナビーの内側には豊かな感情が存在しているが、幼いころのトラウマがそれらの感情に片寄った影響を与えていた。
だから、錯覚しているだけだと言ってやりたい。それは愛ではない、恋でもないんだと教えてやりたい。
感情論でバーナビーを説き伏せることはできず、そのための言葉をもたないことが歯痒く、まったく情けない思いがする。
体を明け渡し、好き勝手させている自分は相当の馬鹿だが、バーナビーの孤独は与え続けることでしかうまらない。知識も体験も、人として繋がるためのツールで、それは虎徹を通してでしか得られないものだった。
バーナビーにとって虎徹は、愛情へ向かって開く窓であり、扉なのだ。
やっかいな奴が相棒になったと後悔しても後の祭りで、引き返すには深入りしすぎた。甘やかしている自覚があるから、いまさら誰かに押し付けることもできない。
八方塞がりとはこのことだ。
「あなたのそばに他のヒーローたちがいるのを見ると、気分が悪くなるんです。虎徹さんは僕のものなのに」
口調は普段のまま、声音だけが甘くかすれて優しいが、卑猥に湿った律動にはそれを裏切る激しさがある。
「…っぁ、いてぇって…」
快感が滲む苦痛に顔をしかめた虎徹に、バーナビーが心外だと眉を吊り上げた。
「痛い? そんなはずないですよね? ここが一番…」
「バニー…っ」
潜り込んだ楔が泣き所を責め立てて、その刹那、
「ほら、イイところ」
恍惚とした表情でバーナビーが微笑んだ。
鬼、悪魔! 胸の内で罵りながら、虎徹は絶頂へと上り詰め、追って果てたバーナビーの脱力した体を受け止める。
見た目のクールさはまやかしで、秘めているのは烈しいばかりの情熱だ。暴走すれば一人でコントロールできないから、こうして側に居続けている。
(ガキのお守りも楽じゃねぇや)
しがみつく手は、振りほどけないのが性分だ。いまさらこの手は離せない。
(そうさ、離せないんだ)
これこそ、愛の正体か?
「虎徹さん…愛してます」
「…ありがとよ…」
愛してしまったのはこちらが先だ。こんなにも、強く深く。
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