聖バレンタインの悲劇。2



 日系の虎徹は肌の黄みがやや強いわりに、粘膜の色素は薄く鮮やかな桃色をしている。その愛らしい色を透けさせる絶妙な生地のセレクトに、バーナビーは心の底から感動していた。
 ネイサンに紹介してもらったクチュリエは一流だ。名だたるコレクションに名を連ねているだけあって、斎藤に作ってもらった虎徹のボディ型を使い、寸分の狂いなく仕上げてくる。
 発注し始めのころは、男性用女性ランジェリーという特殊な注文に、まったく気乗りしない様子だとネイサンから聞かされた。事実、多忙を理由に何度か断られたことがある。
 しかし、ネイサン経由で見せた虎徹の姿(年末に泥酔したおり、ブルーローズ用にプレゼントされた下着を着たときに撮った写真だ)に触発されてくれたようで、いまでは発注を楽しみにしてくれている。お薦めのデザインができたときなど、わざわざ連絡をくれることもあった。ちなみにこのクチュリエは、ネイサン同様、外見は男性であるが、中身はまったくの女性である。
「ああ、まるで新婚初夜の花嫁みたいだ」
 肌の色に映える清潔な白さ。オーガンジーの柔らかな布に透ける、鍛えられた筋肉の陰影。計算し尽くされたコントラストには、目が眩むばかりだ。
 右手首と右足首、左手首と左足首、一対に拘束すれば、虎徹はもう囚われの花嫁である。艶やかな光沢を放つ白いエナメルのハイヒールを手ずから履かせ、バーナビーは骨ばった足の甲へと恭しく口づけた。
「ちょっ…バニーっ」
 大腿の傍へと真っ直ぐに伸ばしたそれぞれの腕と、くの字に折り曲げた膝が作る三角形は実に官能的だ。手足首を繋ぐ鎖には十センチ分の長さしかないから、できることといえば、膝を閉じたり広げたりすることしかない。
 以前、紐を使って全身を縛ったときも感じたが、虎徹は不自由に拘束される姿が良く似合う。卑猥な色気を醸し出し、バーナビーをふしだらな欲望で激しく奮いたたせてくれるのだ。
 ずくり、と腰の奥深くが重く疼いた。口内には唾液が溢れ、嚥下するたび喉が鳴る。
「おまえな、新婚初夜にこんなことしたら、花嫁さんに嫌われっちまうぞっ」
 頬を紅潮させたまま羞恥に唇を引き結んでいた虎徹が、批難がましい声をあげた。バーナビーは虎徹の膝裏に手をかけて押し上げ、畳んだ体を真上から見下ろしながら、ストッキングに包まれたふくらはぎをねっとりと舐める。
「僕の花嫁はあなただけです。嫌われてなんかないですよ」
「………」
 虎徹は思わず歯を噛み締めた。この自信はどこからやってくるのか。つける薬なしとはこのことだ。
「それとも、虎徹さんは僕が嫌い?」
 色欲を灯した碧の瞳で虎徹を愛でながら、割り開いた膝の間に座したバーナビーは、陰茎の形をショーツの上から指先で丁寧に辿る。
「ねえ、嫌いですか?」
「…この…っ」
 この野郎、確信犯め! とでかかる言葉を飲み込んでから、いっそ吐き出してしまうべきだったと虎徹は後悔した。不埒な欲望にいいようにされてしまうその理由など、目の前のハンサムにはとうに判っていることだろう。
 琥珀色の眼差しにきりりっと睨まれたまま、バーナビーはふくらはぎに軽く歯をたてた。指先でショーツの膨らみを幾度も撫でれば、狭い布の中で右に傾く陰茎が徐々に硬さを増して膨らんでいく。盛りあがるにつれてサイドのリボンが引っ張られ、結び目がきつくなっていた。
「教えて下さい。僕の花嫁」
 意地を示して噛みしめられたままの唇を啄んでから、バーナビーは服を脱ぎだした。晒される裸身に虎徹は顔を背けていたが、いきり勃つ自身を尻に押しつけ前後させると、驚いたように見上げてくる。
 然もあろう。すでに質量はマックスに近い。こちらの準備は万端で、すぐにでも押し入ることができる状態だ。
「バ…、バニー」
「はい」
「なに…する気だ?」
「なにって?」
 ガチャガチャと鎖を鳴らしながら、虎徹が押し退けようと膝頭を使ってもがいている。その抵抗をものともせずに、バーナビーはゆるく腰を振り続けた。
「いきなり突っこむ気じゃ…」
「そんなことしませんよ。虎徹さんの大事なところに傷がついたら大変ですから。ああでも、そうですね」
 びくびくと頬をひきつらせる虎徹を横抱き、カーペットに少女のように座らせて、バーナビーはベッドに浅く腰掛けた。
「僕の質問に言葉で答えたくないなら、こっちで答えてもらおうかな」
 唇を叩いた亀頭は、窪みをひくつかせて濡れていた。





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